ホリスティック・ドクターのカラダ通信

vol.22ヨーロッパの予防医学、ナチュロパシー

文:川嶋 朗 医学博士
ロゴ・イラスト:塩川いづみ

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 日本で「自然療法」というと、“手当て”や“おばあちゃんの知恵”のようなイメージが浮かぶでしょうか?ヨーロッパで「ナチュロパシー(自然療法)」というと、国を挙げて力を入れている医療のひとつ。人々のライフスタイルにしっかりと組み込まれていて、医療の基盤にもなっています。

 ナチュロパシーとは、きれいな空気、日光、温泉、わき水や海水、森林など、人の手が加わらない自然要素を取り入れたセラピーや、薬用植物や野菜の栄養素などを体に取り込む食事療法、また、食事、運動、娯楽、睡眠など、日常生活の行為を利用する規律療法などを総称し、西洋医学が発展してもなお、これらは予防医学として親しまれてきました。特に、医療先進国のドイツでは、「クア(療養)」という医療制度があり、「クアオルト」という保養地が全国各地に存在します。しかも、クアオルトの利用には健康保険制度が適用されるのです。
 日本だと「ちょっと保養に行こうか」というと、大抵は温泉に行ってマッサージを受けるくらいでしょう。しかし、「クアオルト」は街全体がひとつの医療施設として計画されたもの。ホテルや治療センターをはじめ、オーガニックレストラン、運動施設やトレッキングコース、温泉や清水、鉱物、泥、炭などを使った療法施設、コンサートホールにギャラリー、遊歩道や小川、など......おまけに、このエリアには車が乗り入れられないようになっており、徹底的に保養環境が守られている。ここを利用するのは病気の人だけではありません。若い人から年配の方まで、「ちょっと疲れたな」「何とはいえないけど不調を感じる」という時にも積極的に利用しています。慌ただしい生活から距離をおいて体をリセットするには、この上ない環境が用意されているのです。

 なぜこれほど大規模な保養地を国が用意するのでしょう?それは、国にとっても、個人にとっても、「病気を未然に防ぐほうが、より経済的だから」です。

 そう聞くと、日本はなんだかおかしいな......と思いませんか?国も病院も「予防医学は儲からない」と目先の利益を優先し、国民もいざ病気になれば医師がなんとかしてくれると、自分の体を他人任せにしてしまっている。もしくは、体の不調にも気づけないほど忙しい毎日を過ごしているのでしょうか?その結果、がんなどの大病を患った時、経済的だけではない大きな代償を払うことになるのは、みなさん自身です。

 長く予防医学をおろそかにしてきたために、今、国と国民が抱えている悪循環について、考えなくてはなりません。クアオルトのような保養所を今すぐに作ることができなくても、日本にも豊かな自然と、そこから培われた“おばあちゃんの知恵”があります。普段の生活に自然のエッセンスを取り入れる方法はさまざまにあります。キャンプに出かけるだけでも十分、医学的に心身の保養であることは、言うまでもありません。

PROFILE

かわしま・あきら/医学博士。東京女子医科大学付属青山女性・自然医療研究所・自然医療部門準教授(附属青山自然医療研究所クリニック所長)。気功・ホメオパシーなどにも精通し、西洋医学、代替医療を取り入れた統合医療を行う。著書に『心もからだも「冷え」が万病のもと』(集英社)、『病気にならないカラダ温めごはん』(アスペクト)など多数。新著『医師が教える幸福な死に方』(角川SSC新書)が好評発売中。

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