vol.23メディカルハーブの遥かなる歴史
文:川嶋 朗 医学博士
ロゴ・イラスト:塩川いづみ
その後、ギリシャからアラブへと伝わったメディカルハーブは、アーユルヴェーダと融合します。これが、ユナニ医学と言われるもの。そして別ルートでヨーロッパへと渡っていく。ヨーロッパでは、医療は教会から生まれたとされており、修道院はいわば薬局の役割を果たしていました。修道院のガーデンで数々の薬草(ハーブ)が栽培され、そこからたくさんのレシピが生まれていったのです。他国を植民地化するようになったヨーロッパ各国は、そこからさまざまな植物を持ち帰ります。免疫を高めるのに効果があるとされるエキナセアも、そうして持ち帰ったハーブのひとつでした。
いわゆる西洋医学の“薬”が誕生したのは、19世紀に入ってからのことです。天然の植物から有効成分だけを取り出して、アヘンからモルヒネを、柳からアスピリンを、青カビからペニシリンを作る。そうしてさまざまな薬剤が化学合成され、それが主流になっていきました。歴史上、非常に残念だったのは、明治維新を迎えた日本に西洋医学として入ってきたのは、そうした薬剤だけだったということ。西洋医学としての進化を遂げても、ヨーロッパにはしっかりと天然のメディカルハーブの医学が根幹に据えられていたにもかかわらず、最新技術のみが渡ってきてしまった。そして、日本の民間療法すら手放してしまったのです。
ドイツでは、今でもメディカルハーブは医師の国家試験の必須科目です。特に薬効の高いハーブは保険の対象でもある。フランスやイギリスでも、薬局でハーブチンキなどが常備されています。それほど、健康を支える不可欠なものとして扱われています。
予防医学に直結するハーブの存在は、日本でも今年の12月には医療従事者による日本ハーブ療法研究会が立ち上がるなど、少しずつ注目され始めています。西洋のものだけでなく、日本にもヒノキやヒバなどの香り高い植物、民間療法として親しまれてきたビワやドクダミ、ヨモギなど、たくさんのハーブがありますし、それらを使った手当てや健康食のレシピは日本各地あらゆる地方に存在しています。私たちのルーツとしての和ハーブを日常に取り戻すことも、予防医学としてぜひおすすめしたいことです。
かわしま・あきら/医学博士。東京女子医科大学付属青山女性・自然医療研究所・自然医療部門準教授(附属青山自然医療研究所クリニック所長)。気功・ホメオパシーなどにも精通し、西洋医学、代替医療を取り入れた統合医療を行う。著書に『心もからだも「冷え」が万病のもと』(集英社)、『病気にならないカラダ温めごはん』(アスペクト)など多数。新著『医師が教える幸福な死に方』(角川SSC新書)が好評発売中。
※バックナンバー(vol.01〜22)は、順次アップしていきます。お楽しみに!