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文:薮下佳代 写真:今津聡子  ※写真転載不可

「長崎県・五島列島 祈りの島 vol.2 島のたからもの」はこちらから!

REPORT

長崎県・五島列島 祈りの島 vol.1 美しい教会をたずねて

日本列島の西の果て、大陸と日本を結ぶ東シナ海にある、長崎県・五島列島。五島のなかで西端に位置し、もっとも大きな福江島と、教会が多いことで知られる中通(なかどおり)島を訪れました。

教会は、島民にとって大切な信仰の証

長崎県には、日本で最多の教会があるといわれています。その数130余り。
なかでも五島列島には約50もの教会が点在し、特に中通島には25もの教会が建ち並んでいました。集落から外れた山の麓や、海を眺める高台など、欧米の教会のように、街の中央に位置することなく、ひっそりとたたずんでいました。ヨーロッパの教会などゴシック様式の優雅で立派な装飾に思わず息を飲むこともあるけれど、今までに見てきた欧米の教会とは異なる、素朴で質実剛健なつくりの教会は、島の風景にしっくりととけ込んでいました。
教会内に入ると、美しいステンドグラスや、愛らしい装飾が施され、窓から入り込むやさしい光が色鮮やかな模様を照らし出し、教会を明るく包み込みます。誰もいない教会なのに、ふと人の気配を感じさせる、そんなやさしい空気が流れているような気がしました。それもそのはず、長崎の教会は島民たちにとってなくてはならない信仰の場として、いまも大切に守られているからなのです。

迫害の歴史をくぐり抜けたキリシタンたち

1550年、世に戦国時代といわれるその時、フランシスコ・ザビエル一行によって、長崎県・平戸にキリスト教がもたらされました。長崎県各地にキリスト教が広がりを見せるなか、江戸幕府は増え続けるキリシタンの反乱を恐れて「禁教令」を発令。長崎の町に点在した教会がどんどん破壊され、弾圧が強まるなか、秘かに信仰を続けてきた人々がいました。表面では仏教徒を装いながら、観音様をマリア様に似せた「マリア観音」を拝み、納戸には仏ではなく聖画像を祀り、口伝えで祈りの言葉「オラショ」を唱えながら、厚い信仰を絶やさず脈々と伝えてきた「潜伏キリシタン」の存在です。彼らは信仰を貫くため、新たな定住地を求めて故郷を捨て、五島へと渡りました。そして、キリスト教が長崎に伝来してから、300年以上経った1873年、明治政府によって禁教が解かれ、信仰の自由が許される時がやってきました。潜伏キリシタンたちは、長い長い苦しみから立ち上がり、自らの手で教会を建立していったのです。

いまに生きる、祈りの場所

そうして信者らの手によって建てられた教会は、島の貴重な宝として大切に受け継がれ、穏やかに島の暮らしに溶け込んでいました。夕方、とある教会の前を通りかかると、何やら人の気配がしました。入り口へと近づいてみると、そこには子どもたちが脱いだ靴が行儀よく並び、遊んでいたと思われるおもちゃのカードも落ちていました。ちょうどミサが行われていたようで、子どもたちの「アーメン」という声が中から聞こえてきます。その小さな祈りの声に、教会の存在が"いまここ"で生きているのだということを改めて思い知らされました。島の人々の日常に息づく信仰、そして祈り。決して忘れられることのない潜伏キリシタンの歴史をいまに伝えてくれる教会は、島の暮らしに欠かすことのできない、大切な拠り所として、昔も今も変わらず、生き続けているのです。


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頭ヶ島(かしらがしま)教会 
長崎県南松浦郡新上五島町友住郷頭ヶ島638

海を望む、石造りの立派な教会。信者らが何年もかけて対岸の島から岩を切り出して、7年をかけて積み上げた信仰のたまもの。外観からは想像もできない愛らしい内部の装飾は、五島に咲く椿を模した花柄で、花びらが4枚しか描かれておらず、それは十字架を表しているといわれている。長崎の教会の設計・施工を数多く手がける建築家・鉄川与助が担当した。

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青砂ヶ浦(あおさがうら)教会 
長崎県南松浦郡新上五島町奈摩郷1241

赤い煉瓦造りの美しい教会。五島へと移住してきたキリシタンによって建てられた最初の教会から、改築を経て、明治43年、3代目となる現在の教会が完成した。信徒によって材料を港から高台のこの場所まで運んだといわれる。教会内の天井はコウモリ天井とよばれ、美しく弧を描くゴシック様式の特徴のひとつ。この教会も鉄川与助の設計・施工。

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堂崎教会 
長崎県五島市奥浦町堂崎2019

五島市から海沿いをひた走ると、その北の岬に天主堂が海へと向かって建っている。禁教令が解かれた後、フランス人宣教師によって設立されたこの教会は、五島のキリシタンたちの信仰の拠点となり、1977年、その役目を終えた後も、資料館として解放されている。ゴシック様式の煉瓦造りで、内部は木造。ステンドグラスの模様は、4枚の花びらの椿が描かれている。

教会を訪れるときのマナー

旅人である私たちも入ることができますが、マナー守ることを忘れずに。

・ミサ、結婚式、葬儀、祈りの集いなどが行われているときは、
 許可なく入ることは控えてください。
・内陣(祭壇)は神聖な場所です。絶対に立ち入らないようにしてください。
・基本的に教会内の撮影はできません。管理者の許可が必要です。
・教会内での飲食、喫煙は禁止です。
・教会内では私語をつつしみましょう。
・教会内に物には手を触れないようにしましょう。

INFORMATION

五島列島の観光情報はここでチェック!

五島市観光協会 www.gotokanko.jp
新上五島町観光物産協会 shinkamigoto.nagasaki-tabinet.com

ACCESS

五島列島へのアクセス

東京(羽田空港)から長崎空港へは、
JAL、ANAとソラシドエア、スカイマーク(神戸空港経由)が就航。
長崎空港から長崎港まではバスで35分。
長崎港から福江島まで、ジェットフォイルで約1時間25分。
長崎港から中通島まで、ジェットフォイルで約1時間15分。
福江島から中通島まで、ジェットフォイルで約30分で結ぶ。

九州商船 www.kyusho.co.jp