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文:根本 周

REPORT

郷愁とやすらぎの地 ー「魚沼の里」をたずねて

人間の背丈を優に超えるような雪が積もることもある、魚沼の長い長い冬。この地域の人々は、厳しい季節をネガティブに捉えるのではなく、知恵と工夫で喜びに転化し、「自然や季節の流れと共に生きる暮らし」を守り続けてきました。そんな魚沼の地に足を運んだのは、この地で創業九十一年を迎えた、日本酒メーカーの八海醸造が、新しく、自然エネルギーの貯蔵庫「雪室」をオープンさせたと聞いたから。この場所に暮らす人々のあたたかな心と、豊かな知恵から「丁寧に暮らすこと」の本当の意味を教えてもらいました。


東京から新幹線でわずか1時間半で到着する浦佐駅。そこから、車に少しだけ揺られたところに「魚沼の里」はあります。ここは、八海醸造の酒蔵「第二浩和蔵」を中心に、おそば屋さん、菓子処、資料館などが広大な敷地内にゆったりと構える、大人のためのくつろぎ空間。目と鼻の先には雄大な八海山を望み、広がる田園風景と、新たに育みはじめた植物の力があふれるガーデンが、訪れた者を皆、ホッと穏やかで、どこか懐かしい気持ちにさせてくれます。

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今回、この場所に新しくオープンするのは、受け継がれてきた雪国の知恵たる、天然貯蔵庫「雪室」。時に厄介者となる雪の力を貴重な資源に変え、室温を年間5℃に保つことで、日本酒や根菜を蓄える貯蔵施設です。八海醸造では、震災をきっかけに自然エネルギーの活用を見直し、この伝統的な知恵を形にし、雪国の酒蔵の特性を活かした取り組みを行なっていこうと考えたそうです。庫内の温度を保つため、時間を区切って見学を受け付けるというこの雪室は、先人たちの暮らしや知恵に思いを馳せ、それを体感することのできる稀有な場所なのかもしれません。

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また、「雪室」の中には、魚沼を代表する「かぐら辛っ子」などの発酵食品を中心に、この地の発酵や熟成といった食文化を表現する様々な食品を販売する「千年こうじや」を併設。その場でいただくことのできる居心地のいいカフェやデモキッチンもあり、観光でいらした方にも、魚沼の保存文化を体感していただこうという想いがこもっています。こちらで、絶品の採れたて山菜料理を試食したのは、本当に至福のひとときでした。

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同じタイミングでオープンする焼き菓子工房ブラン・ドゥ・ブランは、南魚沼で洋菓子店を営む佐藤浩一さんと立ち上げた実力派。清潔な設備の工房でつくられる焼き菓子は、魚沼の雪どけをイメージした「雪室バウム(ホワイトチョコと、甘さ控えめのバウムが織りなすバランスが絶妙!)」を中心に幅広いラインナップを用意し、訪れた人を目にも舌にも楽しませてくれます。(つくられたお菓子はブラン・ドゥ・ブランでは販売しておらず、雪室でお買い求めいただけます)。

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2階には、地域のコミュニティ活性を狙いとしたキッチンスペース「ブランラボ」を構え、地元のシェフやお母さんによる料理教室や、日本酒セミナーなどを開催していく予定だそう。こういった施設をつくるところにも、魚沼という地域を大事にしていきたいという、八海醸造の思いが込められているのを強く感じました。

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最後に、「八海醸造のおっかさま」南雲仁(なぐも あい/会長)さんにお会いした際のエピソードが、この会社、ひいてはこの魚沼の人々を象徴しているようで、とても印象的だったので紹介させていただきます。

たまたま彼女にお会いする機会を得て、黎明期からのお話をいろいろと聞かせていただいているなか、「たくさん苦労がおありだったでしょう?」とお訊ねしたところ、「苦労はないです。あったのは“経験”だけです」と。数多の苦労を経てきてのいまだと思いますが、苦労を苦労としてではなく、ポジティブに受け容れること、それこそがこの地域に暮らす人々の最大の知恵なのだと深く感じ入った出来事でした。

今回は夏に訪ねましたが、やはりこの地域の魅力は冬に一段と増すといいます。その最大の知恵を育んだ、冬の魚沼を体感しに、またいつか訪れてみたい、そんな風に感じた魚沼滞在でした。

ーー新しい施設に、昔から受け継がれてきた知恵が息づく。
「魚沼の里」は、普段都会で暮らしていると忘れがちな、「丁寧に暮らすこと」を思い出させてくれる場所です。

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INFORMATION

魚沼の里

住所: 新潟県南魚沼市長森
休館日: 無休
WEB: www.uonuma-no-sato.jp

八海山雪室(魚沼の里内)
TEL:  025-775-7707
営業時間:11:00〜18:00(季節により変動あり)
定休日: なし(元旦のみ)

ACCESS

「魚沼の里」へのアクセス

【電車】上越新幹線「浦佐駅」より、タクシーで約15分(東京〜浦佐間 約90分)
【車】関越自動車道「六日町I.C」より約20分