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写真:在本彌生 文:兵藤育子

自然崇拝の聖地を巡る1 和歌山県・新宮エリアはこちらから
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REPORT

伊勢から熊野へ 自然崇拝の聖地を巡る3 和歌山県・本宮エリア

山々を分け入り熊野の奥地・本宮へ

海が近い新宮や那智勝浦と違って、内陸部に位置する本宮。今でこそ舗装された山道をひと走りすれば、あっという間に着いてしまいますが、その昔は険しい道のりだったことが容易に想像できます。悠然と流れる熊野川を横目に見ながら、山々に抱かれた神域をめぐる旅へ、いざ!

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山の上へ遷座された熊野本宮大社
那智勝浦の回でも触れましたが、神として崇められている熊野の自然は、私たちに計り知れない恵みを与えてくれる一方で、ときに人間の行いを諌めるかのように牙をむくこともあります。熊野三山の歴史上、最も大きな自然災害のひとつが1889年8月に起こった大洪水です。もともと熊野本宮大社は、熊野川・音無川・岩田川の合流点にある大斎原(おおゆのはら)という中洲に鎮座していました。しかし現在の数倍の規模だった本宮大社の多くが、その大洪水に呑み込まれてしまったのです。流失をまぬがれた社殿は翌年、大斎原から500mほど離れた小高い山の上に遷座されました。

現在、大斎原には日本一の高さを誇る34mもの大鳥居が立っています。かつて大災害が起こったことなど嘘のような静けさですが、この辺りは2011年の台風の際も甚大な被害を受けました。とある商店の女主人が「1階部分がすっぽりと浸水して復興まで大変だったけれども、水害後もたくさんの人がこうやって本宮に来てくれることが、何よりも励みになるんです」と語る姿が印象的でした。

速玉大社や那智大社が鮮やかな朱塗りの社殿であるのに対して、本宮大社は伝統的な檜皮葺で重厚感のあるたたずまい。主祭神もほかの二社と異なり、素盞鳴尊(すさのおのみこと)とされる家津美御子大神(けつみみこのおおかみ)です。また熊野三山のシンボルであるヤタガラスは、神に仕える伝説のカラスでそれぞれの神紋にもなっています。本宮大社をお参りしているとき、青空から一瞬だけ雨がぱらつくという珍事が。熊野三山を巡拝すると「蘇り(黄泉がえり)」ができるという言い伝えがありますが、まさにそれを祝福してくれているかのような清々しい雨でした。

熊野本宮大社 
和歌山県田辺市本宮町本宮 TEL.0735-42-0009
www.hongutaisha.jp ※熊野本宮大社と大斎原は、徒歩3分ほどの距離

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世界遺産の温泉を独り占め
開湯1800年の湯の峰温泉は日本最古の温泉といわれ、熊野を詣でる前に人々はここで長い旅の疲れを癒しながら、身を清めたそうです。お湯に歴史があるだけに温泉街は風情たっぷりで、昔ながらの湯治場といった雰囲気。泉質はかなり個性的で、硫黄の香りが強く、とろりと濃厚。温泉好きが口をそろえて絶賛するのも納得です。そんな湯の峰温泉を語る上で欠くことのできないのが、熊野詣での湯垢離場として世界遺産に登録されている「つぼ湯」。旅館や民宿が沿って立つ湯ノ峰川の横にある、板で仕切られただけのシンプルな温泉で、白濁したそのお湯は1日に7回、色が変わるといわれています。天然岩の湯船はふたりも入るといっぱいになるため、入浴は30分交替制。世界遺産の温泉を貸切で堪能することができます。

湯の峰公衆浴場・つぼ湯
和歌山県田辺市本宮湯の峰110 TEL.0735-42-0074
営業時間:6:00~21:30 定休日:なし

Recommend spot

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木の風合いと職人の人柄が温かい桶屋さん
南紀白浜と熊野を結ぶ国道311号線。山深い中辺路町を走っていると、国道沿いの民家の庭先でひとりの男性が黙々と桶を作っていました。現在79歳の松本濱次さんは、18歳のとき手に職をつけるため田辺の桶職人に弟子入り。当時は国鉄職員が桶家に転職するほど羽振りのよい職業でしたが、昭和40年代に入るとプラスチック製品の隆盛により桶の需要が激減。松本さんも廃業せざるを得ませんでした。しかし今から20年ほど前に故郷の中辺路町へ戻ってきて、近所の人に桶の修理を依頼されたのをきっかけに、もう一度桶作りをやってみることに。すべて手作りのため、1日1個できれば上等。そのため松本さんの桶は特定の店舗に卸しておらず、ここでのみ買うことができます。「車で通りすがりに、珍しがって立ち寄ってくれる若い人が結構多くてな。『こういうのがほしいんやけど』って、お客さんから逆にアイディアをもらったりして、ここで毎日仕事をしていると、おかげさまでいろんな出会いがあるんよ」。先日、頼まれて桶の修理をしていたところ、刻印を見ると偶然にも自分の師匠が大正時代に作ったものだったと嬉しそうに語る松本さん。手作りの木桶は何年、何十年と使うことのできる職人の技が詰まった一品です。

桶濱
和歌山県田辺市中辺路町野中1253 TEL.0739-65-0561

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カフェを営み、これからの持続可能な暮らし方を提案
大斎原の鳥居から国道を挟んだところにある、2007年にオープンしたカフェ。店主の中谷有利さんは、本宮の空気感と人柄に一目惚れしてこの地でカフェをやることに。「暮らし始めて、直感が間違っていなかったどころか、ますます良さが見えるようになりました。山村は人間関係が複雑になりがちですけど、ここの人たちは神様のお膝元を汚してはいけないという意識が、体にしみついている気がします」。ゆくゆくはカフェだけでなく、田んぼや畑を耕し、農家民宿をするという5年計画を立てていたそうで、予定通り昨年5月に農家民宿「山水月(やまみづき)」をオープン。自分たちで収穫したお米を食べることもできました。カフェに来るお客さんの7割は地元の方たち。「私は地元の方たちの暮らし方や人柄に日々感動し、学ばせていただいているので、感謝と敬意を胸にここに立ち続けていきたいと思っています。ここの人たちの営みが世界遺産だと感じています」。

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カフェ・ボヌール
和歌山県田辺市本宮町本宮436-1 TEL.0735-42-1833
営業時間:10:00~17:00 定休日:火曜・水曜
bluebirdscom.petit.cc

農家民宿 山水月
和歌山県田辺市本宮町本宮569 TEL.0735-42-1833

INRORMATION

本宮町の観光情報はここでチェック!

熊野本宮観光協会 /www.hongu.jp

ACCESS

本宮エリアへのアクセス

●飛行機&バス(レンタカー)
東京(羽田空港)からJAL南紀白浜便で南紀白浜空港へ(約1時間。1日3便)。南紀白浜空港から明光バスで紀伊田辺駅まで、駅前から龍神バス(1日に3便。2時間ほどで「本宮大社前」に到着)で本宮町に。もしくは、南紀白浜空港からレンタカーを利用。南紀白浜空港正面にニッポンレンタカーの南紀白浜空港営業所あり。

JAL www121.jal.co.jp

ニッポンレンタカー南紀白浜空港営業所 TEL.0739-42-4344
明光バス www.meikobus.jp
龍神バス www.ryujinbus.com

●高速バス

東京・池袋から南紀勝浦駅行き高速バスで三交新宮駅前で下車。新宮駅前からバス(熊野交通バス、奈良交通バス、または明光バスの熊野古道スーパーエクスプレス)で本宮町に。
※熊野交通・奈良交通のバスは1時間20分ほどで、明光バスの紀伊勝浦発白浜空港行きの特急バス熊野古道エクスプレス(1日1便)は50分ほどで、「本宮大社前」に到着。
三重交通 www.sanco.co.jp
熊野交通 www.kumakou.co.jp
奈良交通 www.narakotsu.co.jp
明光バス www.meikobus.jp

和歌山県の観光について
和歌山県観光連盟 TEL.073-422-4631
www.wakayama-kanko.or.jp

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