豊かな緑に囲まれて、自然と寄り添った丁寧な暮らしが
当たり前のように根付いている岐阜県飛騨市。
先日参加したケチャップ&タバスコづくりのワークショップをきっかけに、
最近、都会からの移住者も増えているというこの土地を訪れました。
写真:福井 馨(POINTER)
REPORT
飛騨市で出合った"当たり前"の暮らし [前編]
「飛騨」と聞いて、みなさんはどこを思い浮かべるでしょうか。風情ある古い町並みが有名な飛騨高山? 合掌造りの古民家が並ぶ白川郷? 今回訪れたのは、そのどちらでもありません。最寄り駅は飛騨古川駅。駅周辺には高山と同じような古民家が並び、少し離れた場所にはのどかな里山が広がる美しい土地です。
古川駅から車で40分ほど。まずは先日のワークショップで使用したトマトを育てている「長九郎農園」の松永さん夫妻を訪ねてみました。
▲松永宗憲さん、さやかさん夫妻。四方を山々に囲まれた「長九郎農園」は、飛騨市の北端、富山県との県境に位置しています。朝晩の寒暖差が激しいため、ここで育つトマトは甘くて実が詰まっていると評判!
五感で四季を感じる、飛騨市での暮らし
数年前までは静岡で会社勤めをしていた松永宗憲さん、さやかさん夫妻。もともと農業に興味を持っていた宗憲さんが、30歳になったことを機に、その気持ちを打ち明けたことが移住のきっかけだったのだといいます。「まずは農業をやりたいという気持ちが先にあって、そのための場所を探していたときに、僕の祖父母が住んでいたこの土地を思い出したんです。古川駅周辺はまだ都会だけど、ここまで来るともうド田舎でしょう(笑)? そんなところにも逆に惹かれました」。宗憲さんの気持ちを聞いたさやかさんは、驚きながらも彼の気持ちを汲んで移住に同意。新しい暮らしに少しの不安を抱きながら、飛騨市に越してきたそうです。
移住後すぐは農業の技術を学ぶことで精一杯だったという宗憲さん。そんな中でも、飛騨市の日常には新鮮な驚きがたくさんあったといいます。「犬の散歩で外を歩くと『持ってけ、持ってけ』って野菜がどんどん増えていくんです。朝起きると、玄関の前に野菜が置かれていることもあります。鍵はかけないし、窓は開きっぱなし! セキュリティは周囲の目なんですよね。地域の方々には本当に助けられています」。
▲長九郎農園では、「桃太郎」や「甘っこ」「ブラックチェリー」など、バラエティ豊かなトマトを栽培しています。トマトが採れる季節には通信販売も。
「当たり前のことなんですが、季節はブツ切りじゃなくて、繋がっているということをここに来てから実感しました」というふたり。「たとえばお正月にお餅をつくとき、この地域の人たちは冬には採れないヨモギを出してくるんです。春に採れた山菜を保存しておいて冬に使うとか、真夏なのに冬に備えて薪を割るとか、雪が降るからこそ秋に収穫するお米がおいしいとか。今思うとここに来る前は、一年のほとんどをエアコンのきいた場所で過ごしていましたからね。暖かい、暑い、涼しい、寒いの四季をはっきりと感じられて、季節を繋げるように暮らしている人たちがいることが飛騨の魅力だと思います」。
雪の下からふきのとうが顔を覗かせて春を感じる瞬間、風の匂いが変わって秋の訪れを感じる瞬間。五感で四季の移ろいを感じながら、自然と寄り添って毎日を丁寧に過ごす。松永さん夫妻の話を聞いて、飛騨の暮らしの根底にあるものがわかったような気がしました。
松永さん夫妻と別れて向かったのは「IID 世田谷ものづくり学校」で行われているワークショップでも飛騨の暮らしの知恵を伝える講師として活躍している西 智子さんのお宅。同じく講師を務める坂口美枝子さんにもお越し頂いて、お話を伺いました。
▲写真左から西 智子さん、坂口美枝子さん、西 良一さん。飛騨生まれ、飛騨育ちのみなさんは、まさに“暮らしの達人”です。
飛騨市で受け継がれてきた、昔ながらの知恵
出迎えてくれたのは、大量のごちそう! 良一さんが近くの川で獲ってきた鮎の塩焼きや、うど、わらび、ぜんまい、もみじがさ、たけのこなどの煮物やおひたし。さらには、飛騨では「アブラエ」の名で親しまれている特産のエゴマを使ったじゃがいもの田楽、栗おこわ、栗よせ(栗を使った和菓子)まで! 目前に広がる色づきかけた山々を眺めながら、屋外のテーブルで飛騨流のおもてなしが始まりました。
松永さんの話にもあったように、飛騨には保存の文化が根付いています。山菜や猪肉は冷凍保存(家庭によっては山菜専用の冷凍庫もあるのだとか!)が当たり前。今では少なくなっていますが、昔は必ず各家庭の土間の床下に“室(むろ)”と呼ばれる保存庫があったそうです。これは厳しい冬を越すための、昔ながらの知恵。「春は山菜を穫るために山をかけずり回って、夏はせっせと畑と田んぼの世話をする。冬になるとようやく家の中の仕事ができる。だから私、初雪が大好き! 辺り一面真っ白でキレイだし、もう畑に出なくてもいいとほっとするの。冬があるから、雪の降っていないときもがんばろうと思える。毎年そうやって暮らしています」と話してくれた西さんと坂口さん。
彼女たちが講師を務めるワークショップは、毎回満員だといいます。穏やかとはいえない自然の中で生まれ、脈々と受け継がれてきた暮らしの知恵は、今こそ私たちが学び、身につけていくべきものなのかもしれません。
※「飛騨市で出合った“当たり前”の暮らし[後編]」はこちらから!
INFORMATION
飛騨市で開催! 暮らしとつながるイベント情報
◎しめ縄づくり
日時:2013年11月30日(土)13:00~15:00
会場:飛騨市図書館2F にじの広場(岐阜県飛騨市古川町本町2-22)
参加費:¥1,000
申込先:申し込みフォームよりお申し込みください。
問い合わせ:飛騨市役所企画課(TEL.0577-73-6558)
※イベント詳細はこちらから
◎花餅づくり
日時:2013年12月21日(日)13:00~15:00
会場:飛騨市美術館(岐阜県飛騨市古川町若宮2-1-58)
参加費:¥1,000
申込先:申し込みフォームよりお申し込みください。
問い合わせ:飛騨市役所企画課(TEL.0577-73-6558)
※イベント詳細はこちらから
◎三寺まいり~ゆらめく炎に、あなたの想いを込めて~
日時:2014年1月15日(水)16:00~21:00
会場:飛騨古川市街地
飛騨古川で300年以上続く伝統行事。その昔、若い娘たちが着飾って巡拝し、男女の出会いが生まれたことから、縁結びが叶うおまつりとして知られるようになりました。当日は、着物のレンタルサービスもあり。町中に灯されたろうそくが生み出す幻想的な雪の世界を、和装姿で歩いてみませんか。
※そのほか今後も、漬物ステーキづくり、猟師さんのマタギの話&しし汁を味わう会、裏山スノーシューなど、冬の飛騨暮らしを体感できるワークショップを開催予定です。ワークショップ情報は随時、「飛騨の暮らしとつながるサイト~飛騨の日常~」で更新されているので、チェックしてみてください。
ACCESS
飛騨市へのアクセス
鉄道利用の場合......約4時間20分
[新幹線のぞみ] 東京~名古屋→[JR特急ワイドビューひだ] 名古屋~高山→[JR高山本線] 高山→飛騨古川
バス利用の場合......約6時間5分
[濃飛バス・京王バス] 新宿~高山→[濃飛バス・JR] 高山~古川駅前
自動車の場合......約5時間10分
[中央・長野自動車道] 調布IC~松本IC→[国道158号線・国道41号線] 安房峠~飛騨古川
飛行機の場合......約2時間40分
[ANA] 羽田空港~富山空港→[富山地方鉄道(バス)] 富山空港~富山→[JR特急ワイドビューひだ] 富山~飛騨古川
飛騨の観光、暮らしの情報はこちらから
飛騨の旅 www.hida-kankou.jp
飛騨の日常 www.hida-kankou.jp/life