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毛皮を知ること[前編]<br>自然素材・毛皮から生まれるプロダクト

写真:渡邉まり子 文:影山直美 協力:一般社団法人 日本毛皮協会

REPORT

毛皮を知ること[前編]
自然素材・毛皮から生まれるプロダクト

 私たちが今着ているものは何でできていて、どこからきたのか? 肌触りや色の美しさ、着続けることで生まれる愛着。衣服を探求していくと、自ずと惹かれるものとして自然素材があります。自然素材の衣服は綿や麻のような植物繊維、絹や羊毛などの動物繊維に分けることができますが、今回、編集部がリサーチするのは、冬の寒い時期に注目される毛皮。言うまでもなく、動物の毛皮を加工してつくる自然素材です。近年、欧米諸国を中心に毛皮製品の持つ価値と意義が大きな転換期をむかえています。動物権利・愛護の立場から、毛皮使用廃止を宣言するファッションブランドが増え、フェイクファーが普及したことで、毛皮は特殊な素材に変化していきました。温暖湿潤気候の日本で生活する私たちにとって、毛皮はとりたてて必要なものではないかもしれません。しかし、毛皮を纏うことは長い人類の歴史の初期の段階において、寒さから身を守ることの唯一の方法でした。さまざまな化学繊維が開発される現代、私たちは毛皮とどのように付き合っていくのか。そもそも、正しい知識を持っているのか。衣服をつくるデザイナー、日本毛皮協会、毛皮のリメイクを行う専門業者というさまざまな人の視点を交えながら、毛皮について考察します。

ファッションデザイナーが考える毛皮

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▲ 写真左から、初めてムートンを取り入れた2013年のジャケット(現在取り扱いなし)、2016年に発表されたものと同型のムートンコート¥600,000|税抜(ヨーガン レール

 自然素材や手仕事へ回帰し、環境を配慮した製造工程を追求するなど、トレンドとは一線を画したブランドとして知られる〈ヨーガン レール〉では、過去にムートン(羊の毛皮)やゴート(山羊)のコートを販売しました。その生産背景を尋ねたところ、このような答えが返ってきました。「デザイナーのヨーガン レールは菜食主義者でしたが、毛皮の持つ軽さや暖かさに魅力を感じていました。食用とされた羊の毛皮ならばと生産したのがこのコートです。やわらかく繊細な肌触りは、動物ならではの質感。メンテナンスには少しコツが必要ですが、大切に扱うと次第に自分の身体に馴染んできて、愛着が湧いてきます」。自然との共存をテーマにかかげながら、衣服だけでなく、家具や食品など生活にまつわるさまざまなものづくりをしてきたヨーガン レールさん。デザイナーという職業を通して独自の姿勢を貫いてきた、彼らしい毛皮との付き合い方と言えます。

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▲ 写真左から、自然染料とデッドストックになったシープスキンを用いたコート¥190,000|税抜(ミレナシルヴァノ/レショップ)、ケミカルな手法を極力使わずに仕上げた、食用羊の皮のスリッパ¥12,000|税抜(オーガニック シープ/ユナイテッドアローズ 六本木ヒルズ店

動物と人間に配慮したものづくりとは

 次に、洋服と鞄を中心に自然素材と製法にこだわったものづくりをする〈エタブルオブメニーオーダーズ〉を紹介します。デザイナー・新居幸治さんと新居洋子さんの活動の拠点である静岡県熱海市にあるアトリエショップを訪ねました。

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▲ 写真左は、〈エタブルメニーオーダーズ〉デザイナーの新居幸治さん、新居洋子さん。洋子さんは、ブランド設立当初に製作したシープスキンベストを着用。トップ画像のベストは¥30,000|税抜(エタブルオブメニーオーダーズ)。右は、コレクションごとに製作するリサーチブック。

——ブランド立ち上げの10年前から毛皮のベストを製作されていますが、毛皮はどのようなものなのでしょうか?

エタブルオブメニーオーダーズ(以下、エタブル) 丈夫で一生使えるものだと感じています。シープスキンのベストは、10年経った今も変わらずに着ていますし、複雑な手入れもしていません。生き物だからこそ、異なる大きさ、かたち、色、すべて個性としてデザインに生かすことができ、ありのままを身につけられます。綿のように紡いだり織ったりする必要がありません。毛足が長く縫い目は隠れてしまうので、傷んだ部分はパッチワークで補正しながら愛用しつづけることができるのも魅力です。

——「食べられる(eatable)」というキーワードが毎シーズンのコレクションで表現されていますが、なぜ衣と食に注目したのですか?

エタブル 私たちは衣類も食べ物も素材が重要だと考えています。「食べられる」をブランドコンセプトに掲げたのは、自分自身(幸治さん)のアトピーがきっかけでした。綿や麻などの自然素材をリサーチしていくと、大体のものは「食べられる」ことがわかり、はたまた「食べられる」を追求していくと「衣」に繋げることができたんです。エタブルが扱う皮は食用の副産物です。毛皮は、寒さや怪我が原因で冬を越せずに自然死してしまうニュージーランドの仔羊を扱っています。生き物の命を無駄のないようにしたいし、仕入先とコミュニケーションをとりながら、いつでも素材がどんなものなのかを明確にしておくことを大切にしています。

——2016年の夏に、動物と人間の共存をテーマにした展覧会「生きとし生けるもの」(ヴァンジ彫刻美術館)に参加されていましたが、どのような経緯があったのですか?

エタブル 2015年春夏で「羊」をテーマにした際は、羊の種類、内臓、毛の刈り方、メリノウールの構造など多方面から羊をリサーチしていくことで、羊のすべてが人間の衣食住に密接に関わり合うことを明らかにすることができました。それらの表現を目に留めてくれたキュレーターの方が、その展示への参加に声をかけてくれたんです。展示会中に羊と豚の腸に肉をつめるソーセージ作りを体験しながら、衣と食の繋がりを考えるワークショップも行いました。衣食住について考えるとき、情報に翻弄されてしまうのでなく、自分なりに情報収集をしながら目で見て、匂って、食べてという経験をすることが必要なのではないかと思っています。私たちは化学物質を少しでも使っているものはダメと言いたいのではなく、いろいろな考え方があっていいと考えます。地球を汚さずにものづくりをする姿勢に共感し合って、なぜ?と思うところは問いかけながら歩み寄りたい。否定するのではなく肯定しながら、衣と食を繋げる架け橋のようなものづくりをしていきたいと思っています。

毛皮について、知るべき・考えるべきことは?

 多様化する現代の生活様式によってさまざまな考え方が生まれるのは当然のこと。世界を見渡すと、毛皮取引が農業活動に不向きな地域(カナダ・アラスカ・シベリア・ナミビア・アフガンなど)で生活する人々の伝統的な生活様式や文化を守ることに役立っている一方、そのこと自体がさまざまな議論を生んでいることも事実です。つまり、毛皮もひとつの価値観によって語るべきものではないのかも知れません。[中編]ではさらに知見を広めるべく、毛皮の基礎知識や利用について、日本毛皮協会に話を伺います。

BRAND INFORMATION

ヨーガン レール/1971年に来日、自然とともに暮らしながらその尊さを伝えてきたドイツ人デザイナーによるブランド。衣服だけでなく、バッグ、アクセサリー、家具、食料品など、自然素材の新しい使い方、手仕事の形跡を残したものづくりを一貫して行なっている。

ミレナシルヴァノ/イギリスのサセックス東部に拠点を置くブランド。再生利用の羊皮や自然染料を用いながら、ハンドワークでファーベストやコートを製作している。

オーガニック シープ/アイスランディックシープというアイスランドに古くから住む長毛の羊の毛皮でラグを製作。自然なままの風合いを生かしたデザインが特徴。

エタブルオブメニーオーダーズ/多摩美術大学、アントワープ王立美術アカデミーで学んだ新居幸治と、ベルンハルト・ウィルヘルムに師事し、バルセロナでの革工芸経験を積んだ洋子により2007年にスタート。「生きとし生けるもの」(2016年、ヴァンジ彫刻庭園美術館)、「ミャオ族の刺繍と暮らし」展(2017年12月、三軒茶屋・キャロットタワー)などに参加。