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Farm to Kitchen to Table<br>ポートランドと東京、食の架け橋

This is “delicious relationship” that connecting with the restaurant, guest and a farm.

写真・文:腰塚安菜

REPORT

Farm to Kitchen to Table
ポートランドと東京、食の架け橋

日本のレストランでも触れる機会の増えた“Farm to Table(ファーム トゥ テーブル)”という価値観。「農場から食卓まで」を意味する“ファーム トゥ テーブル”とは、その日収穫された食材が一貫した安全管理によって私たちのもとへ届けられるという、アメリカで生まれた食の潮流です。オレゴン州ポートランドにあるレストラン「navarre Portland」では、2002年よりその価値観を実践。ニューアメリカンと呼ばれるスタイルで、美しく盛りつける“特別なメニュー”を日々提供してきた彼らの考え方には、今、新しい変化が訪れているようです。

東京からポートランドへ

5月末の木曜日、午後4時半。空港からポートランド市内へ到着すると、夏の陽気。サングラスを欠かせない陽差しのなか、バーンサイド橋を渡り、川を見下ろしながらnavarre本店まで歩いてきた。この日、日本は月末の金曜。「早めに仕事を切り上げ、帰って一杯飲もう」というカルチャーは、まだ始まったばかり。しかし、ここnavarreでは、この時間に集うことが当然といったように、営業開始時間とともに人々が集う。この季節、ポートランドは陽が暮れるのが午後9時過ぎ。ここに集う人々は夜までずっとこの調子なのだと、この地に降り立って初めて体感した。

「トゥルー・ポートランド」は続いている

オレゴン州ポートランドは、市の開発局を中心に都市開発が進められてきた「環境先進都市」である反面、衣食住のメーカーが集う「創造都市」としての一面を持つ場所。サードウェーブ・コーヒーを牽引するコーヒースタンドをはじめ、ポートランド発のグルメ店が次々に日本上陸を果たすが、近年は落ち着きを見せている。しかし、それ以前からポートランド独自のカルチャーに魅了され、事業を始めた日本人移住者も多いそうだ。

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2015年に日本の出版社「メディアサーフコミュニケーションズ」から刊行されたガイドブック『TRUE PORTLAND』を片手に、この土地を訪れた日本人もきっといるのではないだろうか。海外から訪れる観光客やオレゴン州以外の米国居住者へポートランドの魅力を伝えるため、2017年を迎えた今年、ポートランドを拠点とする出版社「ハウソーンブックス アンド ライブラリー アート」より全米で英語版が発売。日本人のために制作されたこの本も、この風潮とともに進化し続けている。

ポートランドと東京、それぞれのnavarreは2人から

navarre Portlandは、2002年のオープン以来15年間、地元の人々に愛され続ける老舗。この日、navarreのオーナー、ジョン・タボアダさんと店で落ち合うのは、彼に影響を受け、navarre Tokyoとして日本国内出店を叶えた森 敏さん。日々多忙なジョンさんは、navarreに隣接するバー「Angel Face(エンジェル・フェイス)」をはじめ、近隣住民に親しまれる複数の飲食店を運営している。森さんは、ライフスタイルにおけるオーガニックの価値を浸透させたいという思いのもと、株式会社オーガニッククルーの代表として消費者に“100%のオーガニック”を届ける事業を運営。さらに、一般社団法人エシカル協会の理事も務め、人と人、人と店を繋ぐライフワークでは、ジョンさんに負けないほど多忙な毎日だ。

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「ファーム トゥ テーブルとは何か?」――まだまだその“What”を深く理解する人は少ない、日本の現状。これまで幾多、こうした問いかけをされたであろうジョンさんに、せっかく出逢えたこの機会を活かしたいという思いから、私はなんとか“How”の部分、つまり、彼がこの店で何をどう実践してきたかについて引き出したかった。地元農家とレストランとの関係について尋ねると、開口一番「信頼関係をほかの何よりも最重要視している」と、ひと言。自慢のサラダをはじめ、料理に使われる野菜は信頼のおける契約農家から、店で提供する豊富なワインはオレゴンワインの生産者から厳選。そして、「店で提供するメニューは、その日に採れる食材によるので、常にパートナーの元へ出かけている」と教えてくれた。

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ジョンさんは、「コミュニティ サポートテッド アグリカルチャー*¹」という会員制度の農業によって地元住民から支えられる農家「47 アベニュー ファーム」の代表、ローラさんと2000年に出会い、15年にわたる信頼関係のもと旬の野菜を仕入れている。さらに、その日に採れる最高の野菜の個性を引き出す、ベストな調理法で人々へ料理を提供することにもこだわっている。その想いは、「季節の野菜が最もおいしい時に食べてもらいたい」という、契約農家の願いに応えるものでもある。

*¹ Comunnity Supported Agriculture(=CSA)とは、一般的には地域支援型農業のこと。地域コミュニティによって支持される農業のあり方で、ここ20年で米国・欧州で急速に浸透してきている。

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▲ 偶然訪れた日本人一家をもてなす森さん。旅行中の一家と森さんの出会いは、春にnavarre Tokyoが6日間限定で出店した、「ポートランドの暮らし」をテーマにしたイベントだったそう。

Farm to Kitchenー農場から厨房へ

今回改めて痛感したのは、「料理は厨房を経由して提供される」ということ。一般的に「ファーム トゥ テーブル」で重視される概念は、そこで提供される食材が消費者と生産者を結ぶ役割を果たしているかどうか。しかし、新鮮・地産地消・季節の食材にこだわるnavarreでは、農場からの食材をゲストの舌と心を満足させるひと皿に仕立てあげる厨房スタッフも、「ファーム トゥ テーブル」を体現する重要な要素だと考えた。東京店でも評価が高く、本国のスピリットを受け継ぐ定番メニュー「navarre チキン」はさることながら、ここポートランドに来たら、ポートランドの旬が反映された野菜料理やデザートのメニューをオーダーしたい。メニュー表の料理ばかりに意識が向いていて盲点だったが、料理に添えられるピクルスやパンに至るまで、ジョンさんの配慮が行き届いていることをサーバースタッフが教えてくれた。

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▲ サーバースタッフが案内してくれたnavarreの厨房。この日のデザートは、ポートランドで旬を迎えたストロベリーのパイがお目見え。写真右下は、青ネギにも似た「Scapes(スケープス)」のピクルス。6月を目前にしたこの時期、navarre本店のキッチンは、ピクルスやジャムの瓶詰で賑わっている。保存食に使われる旬の食材は、気候の異なる日本では表情が変わるだろう。

これは、お酒に関しても同じこと。今回、限られた時間の中でオレゴンワインの生産地へ出向くことができなかったが、本店同様のメニューとサービスを東京店でも提供しようとnavarreのアイデンティティを継承する森さんは、オレゴンワインの生産者を訪問していた。そのおかげで、東京店でも唯一無二の本国の味を楽しむことができるのだ。さらに森さんは、これまで培ってきたネットワークを活かし、栃木の「渡良瀬エコビレッジ」や有機農業に情熱を注ぐ千葉の農園など、高品質の野菜を生産する国内の農家から食材を厳選。日々密なコミュニケーションを育みながら信頼関係を築いた自慢の農家をジョンさんに紹介してきた。この2人の確かな審美眼で選ばれたパートナーの野菜によって、店で提供されるメニューが決定する。

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Kitchen to Tableー厨房から食卓へ

ここnavarreのメニューについて特徴を挙げるならば、その日その日の「スペシャル」として提供される肉や野菜の小皿料理。メニューを小皿料理で提供することは、現代のアメリカ料理のスタイルとして、米国内のカジュアルなレストランでも大分浸透してきているそうだ。そして、気がついたことがもうひとつ。それは、ふと店内を見渡した時に、何より厨房の見通しが良いということ。厨房で定番メニューの「ポテト・パンケーキ」を焼くキッチンスタッフ、大きなパンを切り分けるサーバー、そして、そんな厨房スタッフに声をかけながら訪れたお客さんと気さくに会話するジョンさん。一連の様子を眺めていたら、厨房・オーナー・客が一体となって生まれるアットホームな店の一員になれたような気がして思わず笑みがこぼれた。

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滞在中、週末限定ブランチタイムにnavarreを再訪すると、女性スタッフ2人の笑顔に迎えられる。オーダーしたのはかねてから気になっていた「トルティーヤ エスパニョーラ」。まもなく集ってきた地元の人たちの会話を聞きながら、厚焼きのトルティーヤにナイフを入れ、新鮮な空気と一緒にゆっくりと味わった。navarre Tokyoの日替わりメニューとしても登場するこのトルティーヤは、同じ佇まいでも、東京ではひと味もふた味も違うものが楽しめるだろう。

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▲ “ひと切れ”と言っても、ぎっしり具材の詰まったオムレツ「トルティーヤ エスパニョーラ」。

最後に、これまでnavarre Tokyoを訪れた方だけでなく、これから初めて訪れる方に向けても嬉しいニュースがひとつ。7月から、東京店でも週末限定ブランチがスタートする。これは、最高の食事とともにポートランドに居るようなゆったりとした時間を過ごして欲しいという思いのもと、森さん率いるnavarre Tokyoのチームが日々熱意を注いできた計画。ポートランドでは日常茶飯事である食のカルチャーを、東京の“週末のブランチの楽しみ方”として提案する navarre Tokyoが、まもなく新しい一歩を踏み出す。

INFORMATION


navarre_ロゴ.jpgnavarre Tokyo
住所: 東京都渋谷区渋谷2-9-8 1F
時間: 17:00〜23:00(月曜〜金曜)
11:30〜23:00(土曜)
定休日: 日曜
TEL: 03-6450-6341

navarre Tokyoは、オレゴン州ポートランドに拠点を置くnavarre初の国内路面店として2016年、東京・青山にオープン。 ポートランドの食文化を牽引してきたnavarre本店の哲学を継承しています。navarre Portlandでは、2009年にオレゴン州の「レストランオブザイヤー」を受賞。navarre Tokyoでは、アメリカ大使館主催による2016年の「テイストオブアメリカ料理コンテスト」にてチャンピオンに輝きました。  navarre.jp