MOVIE

NEXT

PREV

荻上直子監督インタビュー<br>母として考える、セクシュアル・マイノリティ

写真:小原泰広 文:臼井のぞみ、草深早希

INTERVIEW

荻上直子監督インタビュー
母として考える、セクシュアル・マイノリティ

荻上直子監督が5年ぶりに手がけた映画『彼らが本気で編むときは、』がいよいよ2月25日(土)より公開。心と体の性が一致しないトランスジェンダーをテーマに、「母と子」の関係を描いた本作は、先日行われた第67回ベルリン国際映画祭にて、セクシュアル・マイノリティ(以下、LGBT)をテーマにする優れた映画に与えられる「テディ審査員特別賞」を受賞。家庭を築き、母となった監督自らが脚本・監督を手がけた、これまでとは一線を画す、新たな挑戦作です。さまざまなカタチの家族愛や母性が登場するこの作品への思いを、“母”という視点で監督に語ってもらいました。

ーー本作は、さまざまな家族が登場し、親子の人間模様を描いていきます。それぞれのキャラクター設定をどのように考えたのでしょうか?

荻上直子(以下、荻上) 脚本を書く時に、計算や理屈、理由などを考えず、すごく感覚的に想像を膨らませながら物語を組み立てます。本作は、子どもの視点から描いたほうが、LGBTに対する壁のようなものを取り払いやすいと考えました。子どもというのは、一度信頼してしまえば物事を偏見なく判断できるところがあると思うんです。だから、小学生のトモ(柿原りんか)を主人公のひとりにしようとアイデアが浮かび、徐々にそれぞれのキャラクターが決まっていきました。

Naoko_Ogigami_interview_1.jpg

ーー好きになった男を追って家を出てしまうトモの母親ヒロミ(ミムラ)やトランスジェンダーに愛のあるリンコの母親フミコ(田中美佐子)、トランスジェンダーに否定的な小学生の母親ナオミ(小池栄子)など、さまざまな価値観を持つ母親が登場します。荻上監督自身は、どの母親像に近いのでしょうか?

荻上 生田斗真さん演じるトランスジェンダーのリンコだと思います。確固たる意志を持っていて強い人。そして、一緒に暮らすことになる恋人の姪っ子、トモを可愛がり、できるならトモの母親になりたいという気持ちを強く抱くようになります。私も自分の子どもがとにかく可愛いと思うんです。母性とか、お母さんになりたい気持ちって、小さい子どもを「可愛い」と思うところから生まれるのかなと思います。

Naoko_Ogigami_interview_2.jpg

ーー現在、4歳の子どもの育児に励む監督。自分の子どもが年頃を迎え、本作と同様に自分の性に違和感があると告白されたらどうしますか?

荻上 今回、映画を撮るにあたって、実際にトランスジェンダーの子どもを持つお母さんを取材しました。彼女は、子どもが小さい頃から「あれ?」と、不思議に思っていたそうです。お兄ちゃんと比べてピンクが好きだったり、キティちゃんの下着を欲しがったり......、でも、それを「ダメ」と言わず、どんなときも味方でいたそうです。子どもを全肯定しているんです。だから、思春期の頃まで全く気がつかずに、突然告白されて驚くということはあまりないと思うんです。もし、自分の子どもからそういう告白をされたら、当然受け入れたいですし、彼らのために自分ができることを精一杯やりたいです。それは、自信を持って言えることです。

Naoko_Ogigami_interview_3.jpg

ーー本作の中では、トランスジェンダーの主人公、リンコの生活がごく自然に描かれています。監督自身がそういった価値観の多様性をしっかり受け止めているように感じました。

荻上 確かにトランスジェンダーの女性を描きましたが、彼女が悩む姿ではなく、普通に恋愛をして、仕事をして、生活をする、そんな当たり前の女性の姿を描きたかったんです。この映画で、世の中の何かが劇的に変わるということは望んでいません。ただ、もし「セクシュアル・マイノリティ」を全く知らない人がいたら、その存在を知って欲しいと思います。もしかしたら気がついていないだけで、きっと周りにはLGBTの人々はいるんです。自分が気づけるようになったら、彼らも心を開いてくれるのではないでしょうか。そんな、ささやかなきっかけになったら嬉しいです。

Naoko_Ogigami_interview_4.jpg

INFORMATION


第67回ベルリン国際映画祭 「テディ審査員特別賞」「観客賞(2nd place)」ダブル受賞!
(パノラマ部門、ジェネレーション部門 正式出品作品)


彼らが本気で編むときは、_top.jpg彼らが本気で編むときは、
脚本・監督: 荻上直子
出演: 生田斗真、桐谷健太、柿原りんか、ミムラ ほか
配給: スールキートス
WEB: kareamu.com

※2月25日(土)より新宿ピカデリー、丸の内ピカデリーほか全国公開