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Yo La Tengo 

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写真:Patrick Tsai(A/M) 文:薮下佳代

INTERVIEW

Yo La Tengo 

日本でも熱狂的なファンを持つ、USインディー・ロックバンド、ヨ・ラ・テンゴが、3年ぶりにニューアルバムをリリース。昨年11月には、一夜限りのスペシャルショー“THE FREEWHEELING YO LA TENGO” を東京で開催した。ファンとの濃密なセッションで構成されたライブでは、「日本で先生になりたかった」と明かしてくれたほど親日家であるベーシスト、ジェームズ・マクニューに話を聞いた。

トークあり、Q&Aあり、観客との対話をもとにライブを作り上げる、
一夜限りのショー“THE FREEWHEELING YO LA TENGO”

――昨日のライブにうかがいました。ファンとの親密な空気感が流れている、とてもいい空間でしたね。

ジェームズ・マクニュー(以下、ジェームズ) 僕たちもとても楽しんだよ。日本のファンとの、とても強いつながりを感じたね。エモーショナルな空気が流れてたよ。

――すでにアメリカやヨーロッパでは何度も開催されている“THE FREEWHEELING YO LA TENGO”ですが、ファンからのQ&Aやリクエストを元に演奏する楽曲をその場で決める、セミ・アコースティックライブというコンセプトはどこからきているんですか?

ジェームズ 数年前、ニューヨーク大学でレクチャーを頼まれたんだ。いろんな質問やリクエストを取って演奏したんだけど、とても変な感じで、でも楽しくて、僕らにとって初めての経験で。そのレクチャーでの体験をアイデアにして、このコンセプトでやってみようということになったんだ。ジャーナリズムを通さずに、ファンと一対一で話し合えるコミュニケーションの場所と、ライブショー、この2つを繋げたような感じだね。僕はインタビューを受けるのがあまり得意じゃないから(笑)、ファンと直接話せるのはすごくいいなと思ったんだ。

――日本のファンと海外のファンの違いってありましたか?

ジェームズ 昨日は、とてもシリアスなテーマの質問が多かったから、それに答えるこちら側が少し大変だったよ(笑)。ほんとに情熱的なファンが多くて、とても感動した。もし質問がなければ、自分たちから話すしかなくなっちゃうわけだけど、幸いにも今までそんなことはないし、日本のオーディエンスはすばらしかったね。僕たちとしても最高にハッピーで、魔法のような時間だった。もちろん言葉の壁っていうのはあったけれど、それを感じないくらいにね! 

――音楽性についての質問や、長年の熱狂的なファンならではのマニアックな質問、リクエストの曲も昔の曲が多くて、日本のファンがこのライブをとても楽しみにしていたのがわかりました。なかでも特に印象に残っている質問はありますか?

ジェームズ ジョージアのお気に入りの映画『HOUSE』(大林宣彦監督作/1977年公開)の原案者の人が会場に来ていたのには、びっくりしたよ!

――そういうハプニングこそ、この“THE FREEWHEELING YO LA TENGO”の醍醐味ですよね。

ジェームズ 毎回、その場その場でまったく違う、一夜限りのショーだから、いろいろなことが突発的に起こるんだ。昨日もとても驚いたよ。いつもとても小さい世界にいるから。

――アイラ、ジョージアと同じように夫婦でバンドを組んでいるという方から「長い間、バンドがうまくいく秘訣は?」という質問もありましたね。アイラは「ジェームズがいること」と答えていましたね(笑)。

ジェームズ とてもうれしかったね。アイラがどういう意味で言ったのか、その本意は僕にはわからないけれど(笑)、場を和ませたりすることはあるよ。でも、それは夫婦間じゃなくても、友だちとの間でもあることだから。友だちとして当たり前のことだと思ってる。あと、重い荷物を持つのも得意だしね!!

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左から:ジェームズ・マクニュー(Vo. Bass)、アイラ・カプラン(Vo.Guitar) 、ジョージア・ハブレー(Vo. Drums)

――では、ニューアルバム『フェイド』についてお聞きしたいのですが。今作のプロデューサーには、ポストロックバンド、トータスのメンバーでもある、ジョン・マッケンタイアを迎えたということですが、その経緯は?

ジェームズ 昨日のライブでも話したけれど、ジョンとは20年来の友だちなんだ。でも今まで一緒に仕事をしたことはなくて。シンプルに言ってしまえば、新しいことがやりたかった。ゆっくりとだけど、そういう思いが蓄積してきていて、このタイミングになったっていうことかな。年を取ってくると、新しいものに目を向けたくなってくるというか、音楽以外のことにも好奇心がわいてくるんだ。それは、普通の人の感覚とは反対なのかもしれないけれど。

――そうですね。年を取るほどに落ち着いたり、趣味が凝り固まったりしてしまう人が大半かもしれません。

ジェームズ それは僕だけじゃなく、アイラもジョージアもそう。新しいやり方を見つけて、それを実践するのが好きなんだよね。

――“新しい”というのは?

ジェームズ 新しい“関係”ということかな。20年以上やっていたロジャー・マテノ(プロデューサー)はよく知っている仲間だったから、彼とは違った新しい関係、やり方を試してみたかったんだ。ロジャーは僕たちのことをよく理解してくれていたし、彼は僕たちの言うことはすぐに理解してくれたから、同じ“言葉”で理解できていたんだ。特にレコーディングの時は、自分たちのサウンドを表現しようとしているわけだけど、そういう意味で僕たちなりの言語を彼は理解してくれていたよね。けれど、ジョンは新しく入ってきた人なので、自分たちの感情だとか、言葉を彼に伝えることがとてもむずかしかった。自分たちらしさって、どういう風に表現したらいいかわからないし。それが“新しい”こと、だよね。だからこそ、ジョンとは密にコミュニケーションを取らないといけなかったし、それが自然なことでもあったんだ。

――それは今までの自分たちの共通言語でできていたことがちゃんと表現しないと伝わらないわけで、ジョンがいたからこそ、今回の作業を通して、メンバー自身が自分たちの音楽性や、ヨ・ラ・テンゴらしさを発見する、いい機会になったということですね。

ジェームス まったくその通り。ジョンがいたからこそ、だね。いい節目になったよ。

――毎回、新作の中には実験性のある曲があったり、さまざまな発見があって、今作もとても楽しみにしていました。

ジェームズ アルバムを作ること自体、毎回、実験だと思ってるよ。今回ももちろん。いつも違う形でレコーディングしたりだとか、曲を作る時も、普通のものとそうじゃないものを一緒にしたりしてね。ナスティなものと美しいものとか、静かなものとうるさいものとかを掛け合わせたり。そうした相反するもの同士から生まれる“テクスチャー”がとても大切なんだ。

――ジョンとのレコーディングはいかがでしたか?

ジェームズ シカゴにあるジョンのスタジオでレコーディングしたんだ。ジョンと僕たち3人だけで、ほかには誰もいなくて。とてもプライベートな空間で、すばらしい体験だった。とてもキレイで、クリーンで大きな別荘みたいな雰囲気でね。ジョンはとてもかしこくて、コンピュータ人間みたいなんだ。もちろん、フレンドリーなね(笑)! それに、ジョンとは同じような音楽が好きだから、僕らのやりたいことをすぐにキャッチしてくれた。たとえば、僕がベースで、ブラック・フラッグのフレーズを弾けば、それだけで、ジョンは一瞬で僕のやりたいことを理解してくれたりね。

――まさに音楽を通してコミュニケートしていったということですね。

ジェームズ たいていはそういう感じだったね。

――話は変わりますが、デビュー以来、何度も来日してくださっていますが、来日中の楽しみはありますか?

ジェームズ 日本での滞在はいつも一緒のことしかしていないんだ。寝て、ショッピングして、食べてばかりいたよ(笑)。毎回行く場所も決まっていて、ラーメン屋もレコード屋もずっと一緒のところだよ。〈博多天神〉はグレイトだね! ほかにも〈青葉〉〈一風堂〉......。それらは僕にとってほんとにスペシャルな場所なんだ。いつ行っても変わっていないからうれしいよ。

――日本のファンたちは、あなたがレコード屋へ行ったり、ラーメンを食べたりと、日本滞在を楽しんでいる様子をTwitterで見て喜んでいましたよ!

ジェームズ いいね! いいね! 仕事中は忙しくてなかなかつぶやけなかったのが残念だよ。

――では、最後に日本のファンへメッセージをお願いします。

ジェームズ いろんな音楽を聴いている日本のファンのみんなにも、気に入ってもらえるとうれしいな。2013年中には、また来日したいなと思ってるよ。楽しみにしていて!

INFORMATION

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『フェイド』 ヨ・ラ・テンゴ   ¥2,490 | Hostess Entertainment

前作『ポピュラー・ソングス』以来約3年ぶり、通算13作目のオリジナルアルバムとなる新作。長年の友人でもある、トータスのジョン・マッケンタイア(ティーンエイジ・ファンクラブ、ブライト・アイズなどを手がける)をプロデューサーに迎えた今作は、ストレートなメロディラインとギターサウンドが際立ちつつも、ポップでヨ・ラ・テンゴらしいエッセンスが感じられる楽曲がちりばめられている。長年のファンのみならず、新たに多くのファンを獲得するであろう傑作に仕上がった。大きな樹の傍らに佇む3人の美しいジャケットが秀逸!

ヨ・ラ・テンゴ/1984年の結成以来、USインディー界のカリスマとして世界中の音楽ファンから熱い支持を受けるスリーピース・バンド。底知れない好奇心のかたまりのような彼らから生まれる音楽はあらゆる音楽ジャンルを横断。ソニック・ユース、ペイヴメントなどの人気アーティストと共にインディレーベル〈マタドール〉を牽引する。hostess.co.jp/matador/yolatengo/