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秋に聴く、ワールドミュージック

Translation:Masahiro Ueda Text:Chee Shimizu(Organic Music), Saki Kusafuka

REVIEW

秋に聴く、ワールドミュージック

日中の穏やかな気候が快適な一方で、夕方には日が落ちる毎日にようやく秋らしさを感じる頃になってきました。季節は1年で最も夜が長い冬至へと向かう途中。日に日に長くなる夜には、ゆっくり音楽を聴くのも良いのではないでしょうか。そこで、優れたアフリカンミュージックを届けるレコードレーベル「Awesome Tapes From Africa」と、世界各地の良質な音楽をセレクトするレコードショップ「Organic Music」、そして独自のセンスで民族音楽を発掘するレコードレーベル「Dust-to-Digital」に、ワールドミュージックについて教えてもらいました。ワールドミュージックとは、リズム、楽器、国、年代などのさまざまな様式を含めて、限りない可能性を秘めた音楽カテゴリーのひとつ。今回ご紹介するのは、イージーリスニングのように聴けるトラックばかりです。

AWESOME TAPES FROM AFRICA

AwesomeTapesFromAfrica.jpg2011年にブライアン・シムコヴィッツがスタートした「Awesome Tapes From Africa」(以下、ATFA)は、ミュージシャンたちとともに制作した音源を再発し、海外でのパフォーマンスをはじめ、レコードやCD、デジタル音源、カセットテープを通してアフリカの音楽を世界に広めることを目指したレコードレーベル。これまでに、Penny Pennyは「Sydney Opera House」で、Ata Kakは「London's Field Day」で、Hailu MergiaはNYの「Radio City Music Hall」で演奏するなど、レーベルのアーティストたちは世界のユニークなフェスティバルや会場に出演。2006年より続く「ATFA」のブログでは、見つけることが困難なさまざまな国の音楽の多様性を探究しています。 awesometapes.com
Hailu_Mergia.jpgHailu Mergia / Hailu Mergia & His Classical Instrument

1970年代にエチオビアでその名を知られた、キーボード/アコーディン奏者のアディス・アババが基となる音源を制作したアルバム。それを聴いたハイル・メルジアは、古いエチオピアの歌とアコーディオン、シンプルで静かなドラムを思い起こしました。数年前、偶然にもメルジアの音源を見つけて、彼とともに「ATFA」よりアルバムを再発。彼のシンセサイザーとローズエレクトリックピアノは、別世界へ連れて行ってくれるでしょう。

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boubacar.jpgBoubacar Traore / Mariama Kaba


西アフリカはマリのシンガーソングライター、ボウバカー・トラオーエ。穏やかさとのどかさ、そして、ビターな曲の中で、彼のアコースティックギターは歌声に添うように奏でられます。彼は10年前にキャリアの復活を遂げ、いまなお世界中をツアーする中でファンを獲得。歌手、オウモウ・サンガーエのような、もっと激しく踊れる音楽が有名なマリ南部からの1曲です。「もし、トラオーエに惚れなかったら、あなたのハートはおかしいよ」と、ブライアン。

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SK_Kakraba.jpgSK Kakraba / Songs of Paapieye


北ガーナ出身のSK Karkrabaは、「ジーリー」と呼ばれるひょうたんの共振器で作られた伝統的な木琴の演奏者。家族全員が自分たちの住む村の伝統的な儀式の演奏者で、彼は子どもの頃からジーリーに慣れ親しんできました。このアルバムは、レーベルで初めて制作したオリジナルの音源。同行するダンサーたちによって引き出される即興のパフォーマンスと、フォークをベースにするSKの高度な演奏を楽しめるアルバム。

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Ouedraogo_cover.jpgOuedraogo Issaka dit Zougna Zaguemda - En Concert A La Maison Du Peuple

数々のレジェンドや家系の歴史を語り継ぐ、西アフリカのミュージシャン“グリオ”。大半の歴史がイスラム語で書き残されてきたこのエリアで、グリオの言葉で紡がれるその歴史はとても重要なもの。ブルキナファソにある彼らの音楽は魅力的なのに、国自体がその素晴らしい音楽シーンを注目していません。ミニマルな歌声とともに、全編に渡って美しい弦楽器が演奏されるこのテープには単純に心を奪われます。

LISTEN HERE
awesometapes.com/ouedraogo-issaka-dit-zougna-zaguemda










ORGANIC MUSIC

organicmusic.jpg「Organic Music(オーガニック・ミュージック)」は、2008年にオープンしたオンライン・レコード・ストア。特定のジャンルに執着せず、世界のあらゆる音楽を独自の感覚で着目し紹介します。新旧問わずユニークな音楽を発信するレコード・レーベル「17853 Records」も運営。 organicmusic.jp

Fairouz_Maarifti Feek.jpgFairouz / Maarifti Feek
Relax-In (Lebanon) 1987


エジプトのウム・クルスームとならびアラブ世界で愛され続ける、レバノンの歌姫ファイルーズ。アラブ歌謡の第一人者として半世紀以上にわたり活躍する偉大な歌手が、ジャズやボッサノヴァなどを取り入れモダンなサウンドを披露した1987年発表の異色作。邦題は「愛しきベイルート」。言葉はわからずとも聴く者の心に染みる、ベルベットのように艶やかで光沢のあるその歌声がもっとも輝いていた時期の作品です。

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Urbano_Moraes.jpgUrbano Moraes / Vamos A Mirarnos Mas De Frente
Sondor (Uruguay) 1991

エドゥアルド・マテオ、ルベン・ラダやピッポ・スペラなど、ウルグアイのポピュラー音楽シーンの礎を築いた重要アーティストが多数参加した、ウルバーノ・モラエスのソロ・アルバム。ウルグアイならではの情緒的なメロディ・センスと洗練されたアレンジが光るクロスオーバー・ジャズで、民族音楽「カンドンベ」のリズムもたっぷり盛り込まれています。繊細な表情を見せるウルバーノのヴォーカルも甘く切なく、心地良いです。

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Gerardo_Batiz.jpgGerardo Batiz / Amarillo : Grabaciones Originales 1980-1987
World's Trees (Japan) 2016

メキシコのジャズ・ミュージシャン、ジェラルド・バティズが80年代に発表した楽曲をコンパイルしたベストアルバム。一部のコアなフリーク以外にあまり知られることのなかったアーティストですが、カリブ音楽やブラジル音楽のテイストが存分に取り込まれたトロピカルなジャズ・フュージョンから胸キュンなメロウ・グルーヴまで、ポピュラー音楽としての普遍性をもった素晴らしい楽曲をたくさん残されています。

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WaterMelonGroup.jpgWater Melon Group / Cool Music
Alfa Records (Japan) 1984


プラスチックスからメジャー・フォースまで、常に時代の先端を進む中西俊夫が80年代初期に結成したメロンの別プロジェクト。屋敷豪太、ヤン富田、バガボン鈴木らが参加し作りあげたヴァーチャル・エキゾなリゾート音楽。マーティン・デニーの演奏で知られるリー・バクスター作曲のエキゾチカ大名曲「クワイエット・ヴィレッジ」や「ジャングル・フラワー」をひんやり涼しく演奏しています。クールダウンに最適。

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DUST-TO-DIGITAL

dusttodigital_main.jpg1999年にランス・レドベターによって設立されたレコードレーベル。現在は、妻のエイプリルとともに、ジョージア州アトランタで運営しています。「Dust-to-Digital」のポリシーは、レーベル設立から一貫して、クオリティの高い音楽を文化的な結果として残していくこと。 dust-digital.com

EXCAVATED_SHELLAC.jpgEXCAVATED SHELLAC / STRINGS

1920年代から1950年代の弦楽器の演奏を世界各地から集めた、レコードコレクターのジョナサン・ワードによるコンピレーションアルバム。日本の鼓弓や三味線をはじめ、パラグアイのハープ、インドのヴィーナ、レバノンのウード、そして、ベトナムのムーンギターなどを幅広くフィーチャーしています。ワードによってマスタリングされた、すべての曲が初めての再発。“民族音楽”という新境地へ誘われるレア盤です。





LongingForthePast.jpgLONGING FOR THE PAST / THE 78 RPM ERA IN SOUTHEAST ASIA

1905年〜1966年の60年間に東南アジアで初めて見つけられた「SPレコード」と呼ばれる回転数78rpmの音源を収録した、デビッド・ミューライ編集によるアルバム。軽やかな曲のシリーズは、民族音楽学者による膨大なエッセイやレコードレーベル、スリーブとともに紹介されています。78rpmのマーケットのために制作された当時の音楽を手に入れることのできなかった民族音楽学者たちにとっても最高の選曲集。



Luk_Thung.jpgLuk Thung / Classic & Obscure 78s from the Thai Countryside

デビッド・ミューライによって編集されたこのアルバムは、1950年〜1960年初頭のグルーヴィーなタイの民族音楽の中から、ファンキーなサウンドだけをフィーチャーしたポップな1枚。コレクターであるミューライの貴重な78rpmレコードコレクションの中から慎重にマスタリングされたすべての曲は、再発されたことのないオリジナル。





cambodiaslostrockandroll.jpgDon't Think I've Forgotten / Cambodia's Lost Rock and Roll

40年前、プノンペンはカンボジア武装組織に負け、カンボジアンロックが失われました。ミュージシャンたちは狙われ、欧米風の楽曲制作やダンスは非合法化に。このアルバムは、クリエイティビティのために命を払ったレジェンドたちへのオマージュ。1950年〜1970年に盛り上がったミュージックシーンの中からポピュラーな歌手たちの言葉や歌を通して、カンボジアのロックンロールの歴史を辿る映像のサウンドトラック。