写真:間部百合 文:粉川しの
INTERVIEW
Vampire Weekend
2010年代USインディ・ロック・シーンのトップに君臨するヴァンパイア・ウィークエンド、3年ぶりの待望の新作『モダン・ヴァンパイアズ・オブ・ザ・シティ』は、大スケールの「アメリカ」を鳴らした意欲作。“自由で情熱的に、やりたいことを全部やった”と語るボーカル&ギターのエズラ・クーニング、ドラムのクリス・トムソンに訊いた。
――ニューアルバム『モダン・ヴァンパイアズ・オブ・ザ・シティ』、聴かせていただきましたけど、前作『コントラ』と比べるとビンテージな曲はとことんビンテージに、モダンな曲はとことんモダンに、大きな振れ幅の中でとても自由にアルバムを作っているなあと。
エズラ・クーニグ(以下エズラ) どのアルバムも完成させるのは毎回大変で、苦労はするんだよ。それがアートってものだと思うし。だからこうやって作り終えてから振り返って話をするほうが楽しかったりするんだよね(笑)。うん、でもたしかに今回はこれまでと比べるとずっと自由だったかもしれない。好きな音を追い求めるのも、組み合わせるのも、どんなルールも無用だったし、フラストレーションを感じることもなかった。やりたいことは全部やっちゃおうぜ!って感じで。
――『コントラ』と比べると出発点から違った?
クリス・トムソン(以下クリス) 明らかに違うのは初めてプロデューサーと一緒にアルバムを作ったってことだよね。あと、ロサンゼルスですごした時間が長かったのは大きいだろうね。僕らがニューヨーク以外の場所で音楽を作るってことはこれまでほとんどなかったから。
――ヴァンパイア・ウィークエンドはニューヨークのバンド、というイメージが強いですしね。LAでの初レコーディングはいかがでした?
エズラ うん、楽しかったよ。時間の感覚がちょっとおかしくなったけどね(笑)。快適な場所で、お天気もよくって、友達もたくさんいたし。なんだろう......今回は「このアルバムはニューヨークじゃないな」って、最初から感じてたんだよ。これまでずっと僕らはニューヨークで音楽を作ってきたんだけど......たぶん、このアルバムをニューヨークで全部作ってたら全く違う作品になっていたと思うよ。僕らは今回、ニューヨークでアルバムの元となるアイディアを練って、それを持ってLAに行ったわけだけど、時間と場所を自分たちが慣れ親しんだ場所から「切り離す」こと自体がすごく重要だったんだ。自分たちのベースや先入観をいったんリセットして、何もないゼロ状態で自分たちと向き合ってみるっていう行為がね。
クリス ニューヨークでのアイディアの出し合い作業で1年ぐらいかかったのかな。だからLAに行ってからはレコーディングだけに集中できたのも大きいよね。LAのスタジオっていうととにかくデカくて最新設備の整ったゴージャスなところを想像するかもしれないけど、僕らがレコーディングしたのは魚屋の裏手の小さなスタジオでさ(笑)。30~40年前からあるような古い建物だったんだけど、そこがまたいい雰囲気だったんだ。
――新作には様々なタイプのナンバーが収録されていますけど、“ダイアン・ヤング”はエルヴィス・プレスリーみたいなボーカルが最高でした(笑)。
エズラ そうだね、あの曲はまさにエルヴィスで(笑)、ああいう思いっきりクラシックなロックンロールをやってみたかった曲だよ。あるいは、今までにないくらい直球でエモーションを響かせたいと思った曲もある。やりたかったことは曲それぞれ違うんだけど、どの曲もやりたいことを全力でやりきったって感じ......それがこのアルバムのカラーかもしれないね。
僕らは今「グッド」だけど、「グレイト」なバンドになりたいんだ。
――前作『コントラ』の時にエズラはインタヴューで「このアルバムでヴァンパイア・ウィークエンドに対する世の中の誤解を解きたい」って言っていましたけど、本作についても自分たち本来の音楽性とパブリックイメージの相違を埋めたいというテーマはあったんですか?
エズラ そうだねえ......ここまできたら「もう誤解されてもいいや」って感じかな(笑)。3枚目のアルバムでもまだ誤解が解けないなら、僕らはもう自分たちの好きなことをガンガンやるよっていう......それは冗談としても(笑)、このアルバムが提示しているのはちょっと歳を重ねた僕ら。少なくともファースト・アルバムのような大学生ノリはもうないと思うし。かなり成熟したけど、でも大人にはなりきれてない僕ら、っていうアルバムじゃないかな。
――でも『コントラ』ってすごく成功した大ヒット・アルバムですし、誤解はもう解けたんだ!とは考えなかった(笑)?
エズラ いや、でも実際ね、僕らは2枚のいいアルバムを作って、それなりに成功も収めたし、今回は少しは楽にアルバムが作れるかと思ったんだ。でも、まったくそんなことはなかったんだよね(苦笑)。アイディアが優れていなきゃダメなのはもちろんだけど、なによりも曲として最終的に素晴らしいものに仕上げなくちゃ意味がないし、かつ、大勢の人に喜んでもらいたいってのもあるよね。ポップミュージックを作ってるんだからさ。でも、そうなるとどうしてもロックバンドって妥協したくなっちゃうんだよ。ここで静かめのバラードを入れたほうがいいんじゃないか?とか、もっとキャッチーなシングルを書かないと!とか、あとヘッドホンで聴いて気持ちいい曲も念のため入れておこう......とかね(笑)。でも、僕らはそういうレベルでは終わりたくなかったんだ。
クリス うん、守りに入りたくなかったんだよね。
エズラ そう。で、1枚目で感じた達成感を2枚目で越えてやろう、2枚目の達成感を今度は3枚目で越えるんだ......ってやっているうちにどんどん勝手にハードルが上がっていくっていう。それに、1枚目や2枚目で僕らを誤解していた人たちを見返すことができたとしても、今度は「あいつら3枚目で今度こそ終わるだろう」と言うようないじわるな人たちをギャフンと言わせるアルバムを作らなきゃいけないしね(笑)。僕らは今「グッド」なところまできてるとは思うんだけど、「グレイト」なバンドになりたいんだ。「グレイト」なバンドになるには最高のアルバムを4枚、5枚って出し続けなくちゃいけないと思ってるんだ。これまでの2枚と比べたら揺るぎない、普遍的なアルバムを作りたかったっていうか。
――じゃあ、このアルバムが完成するまでの4年間はかなり思考錯誤もしたんですか?
エズラ このアルバムを作っていたのは4年のうちの約1年半で、残りはツアーと休暇だったんだ。曲作りはすごく楽しかったし、簡単でもあったんだけど、それを完成させるのが大変だったんだ。朝おきてコーヒー飲みながら「ああこれいいじゃん!」って思えるアイディアを書いてるうちはいいんだけどさ、実際にそれをかたちにしようとする夕方やディナー前の時間が一番ツライっていう(笑)。
――(笑)。
クリス ほんと、ゴール直前の最後のステップがたいへんなんだよね......。
――あなたたちの音楽は何の苦労も知らない天才が作ったもののように聞こえるんですけど、こうしてお話を伺うと、身の丈の共感できる苦労をしてらっしゃるなあと(笑)。
エズラ いや、でもほんとそういうもんだよ(笑)。
クリス そこなんだよねぇ。このアルバムを聴いて気に入ってくれた人に僕らの苦労をぜひ知ってくれ!とは言わないけど、実際とのギャップを埋めるとしたら必要なのはこういう会話なんだろうね(笑)。
――ここで、すごく乱暴なキャッチフレーズをあえて付けてみますね?あなたたちのデビュー・アルバム『ヴァンパイア・ウィークエンド』は「最高のカレッジ・ロック・アルバム」で、セカンド『コントラ』は「最高のオルタナティヴ・ロック・アルバム」でした。
エズラ ハハハハッ!それおもしろい(笑)。
――(笑)。じゃあ、あなたたち自身でこのニューアルバム『モダン・ヴァンパイアズ・オブ・ザ・シティ』のキャッチフレーズをつけるとしたら?
エズラ そうだね、なんだろう......「アメリカン・サウンドの集大成」、かな。最初の2枚では追求しきれなかった感情やサウンド・スタイルを突き詰めていった先で、再発見したのが「アメリカ」だったっていうか。アメリカンサウンドってすごく意味が広くて、さっき君が言ってたエルヴィスみたいな50年代のロックンロールも、80年代以降のヒップホップも、それに脈々と受け継がれるゴスペルミュージックみたいなものも、ほんと多種多様に存在するんだよね。僕らはファーストの頃から典型的なロックソングは書きたくないと思っていて、どうやって典型から外れるか、ひねりを加えるかってことを考え続けてきたんだ。でも、そういうプロセスを経て3枚目を迎えた時に、逆に典型的なロックソングを作ること自体が難しくなっていたっていう(笑)。ファーストの頃は頭で考えていた。頭でっかちに「ユニークな音楽をやらねば!」っていきがってた。で、セカンドでエモーションを優先させる術をちょっとだけ学んだ。そしてこのニューアルバムは最もエモーショナルで、ロマンティックなアルバムになった。僕らはもう典型を恐れないし、アメリカンであることも謳歌したいと思うようになった。そういう意味で自由だし、情熱的だし、自由に作った結果アメリカンサウンドを詰め込んだアルバムになったって言うか。
――『モダン・ヴァンパイアズ・オブ・ザ・シテイ』というタイトルもだいぶユニークですよね。『コントラ』からぐっと具体的になりましたし。
エズラ ファニーでシリアス、ユーモアもあるよね。小説のタイトルみたいで気に入ってるんだ。ヴァンパイアと言っても『トワイライト』シリーズみたいなのとはちょっと違うけど(笑)。
INFORMATION
『モダン・ヴァンパイアズ・オブ・ザ・シティ』 ヴァンパイア・ウィークエンド
¥2,490 | XL/Hostess
これまでの作品との最大の違いはLAでレコーディングされたこと。NY在住のインテリ・ヒップ集団だったヴァンパイア・ウィークエンドが自分たちの居場所から一旦距離を置き、LAの開放的なムードの中で自由に、とことんやりたいことを突き詰めた結果、今までになかったほどのオーガニックかつダイナミックなロックの魅力が生まれている。インディ・ロックの枠を超えて彼らをメインストリームの最前線に立たせることになるだろう決定打。
ヴァンパイア・ウィークエンド/2006年結成、2008年に『ヴァンパイア・ウィークエンド』でデビューしたNY出身の4人組。実験性とポップネスを兼ね備えた新世代きっての実力派で、前作『コントラ』で全米1位を獲得しインディ・シーンに旋風を巻き起こした。www.vampireweekend.com