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ネパール発のオーガニックコスメ〈Lalitpur〉のプロダクトデザイン〈Lalitpur〉代表・向田麻衣 ×〈SIRI SIRI〉デザイナー・岡本菜穂

文:草深早希

REPORT

ネパール発のオーガニックコスメ〈Lalitpur〉のプロダクトデザイン〈Lalitpur〉代表・向田麻衣 ×〈SIRI SIRI〉デザイナー・岡本菜穂

Lalitpur(ラリトプール)〉は、バスソルトやソープバー、マルチバームなど、すべてのプロダクトにヒマラヤ山脈の大自然が育む上質なワイルドハーブや岩塩などを贅沢に使用した日本のオーガニックコスメブランド。人身売買の被害に遭い、心に深い傷を抱えたネパールの少女たちが、精神的にも、経済的にも自立することを支援したいという願いから、〈ラリトプール〉代表・向田麻衣さんが2013年にブランドをスタートしました。今秋10月にオープンしたポップアップショップでは、向田さんが日頃から交流のあるゲストを迎えたトークイベントを連日開催。その中でも、〈ラリトプール〉のロゴやパッケージデザインを手がけた、ジュエリーブランド〈SIRI SIRI(シリ シリ)〉デザイナー・岡本菜穂さんとのトークイベントでは、ひとつひとつのプロダクトがネパールの少女たちの手によって丁寧にパッケージに包まれるまでの手触りを感じるようなストーリーを伺うことができました。

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向田麻衣(以下、向田) 今回は、〈SIRI SIRI〉というジュエリーブランドのデザイナー・岡本菜穂さんをゲストにお迎えしました。岡本さんは、〈ラリトプール〉のロゴやパッケージデザインを担当。一緒にネパールへ旅をして、そこで見たものをデザインに落とし込むということをやってきました。ここで、少し自己紹介を。
岡本菜穂(以下、岡本) 私は「コンテンポラリージュエリー」と呼ばれる、従来のジュエリーの概念に捉われない現代的な解釈を加えたジュエリーのデザインをしています。例えば、パイレックスという、普段は実験器具に使われるガラスを素材にして、江戸切子のパターンをつけたり、地域の伝統技術をデザインに用いたジュエリーを作っています。〈SIRI SIRI〉は、自分が金属アレルギーだったことがわかった時に金属以外でジュエリーが作れないかという経緯から、ガラスや天然資材で作るようになりました。基本、自ブランド〈SIRI SIRI〉のデザインをしているので外部からのデザイン依頼は受けておりませんが、向田さんとは縁があってすごく気も合うので「一緒にやろう」ということでパッケージデザインを務めました。

プロダクトのデザインソースを探る旅へ

向田 〈ラリトプール〉は、ブランドをローンチしてから2年半になります。今から3年程前に、外側のパッケージをどうするかということをさまざまなデザイナーさんに相談した中で、岡本さんが〈ラリトプール〉にすごく共感してくださったんです。個人的にも〈SIRI SIRI〉のジュエリーがすごく素敵だと思っていたので、彼女のセンスとかキュレーション能力をネパールのプロダクトに反映してもらえたら、今までにないものができるんじゃないかと思いました。フェアトレードとか、ネパールで作った素朴な手作業という部分を前面に押し出すのではなくて、都市に生きる現代的な人たちにも手に取っていただけるようなデザインで、さらに喜ばれるようなプロダクトができるんじゃないかと思い、商品制作がスタートしました。
岡本 それで、急にデザインの話が決まって、一緒にネパールに行くことになったんです。
向田 「私、来週からネパールに行くから、やっぱりネパールを見て欲しい」と話したんです。そうしたら、岡本さんが「私、来週なら行けそう!」って(笑)。

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初めて訪れた色彩の国、ネパール

岡本 ネパールへ訪れたのは、2012年の夏。ネパールでは、まず空港にある通関で使われている紙の色自体がもうすでに日本のものとは違うんです。日本だったらそういう書類は白が当たり前ですよね。でも、そういった書類の色がイエローやブルー、ピンクで、まず初めに「これがネパールかあ」と思いました。それで、日常的に使われているネパールの色や、デザイン、質感をどこかデザインに取り入れたいと思ったんです。
向田 私はネパールに到着したら、げっそり、眠い、疲れたという感じだから、そういう書類とかできるだけ早く終わらせたいと思うほうなんです。だから、そこまで気が回らなくて......何回も、何回も、見ている書類だから、新鮮な目で紙の色を見ることができなかったんです。でも、岡本さんがネパールに到着したその日の夜に、大事にしまっていた入国審査の紙をそっと出す、そんな仕草に 「いいなあ」と思ったんですよ。その視線に、キュレーションの力を感じました。同じようなものがいっぱい並んでいても、柄の組み合わせがかわいい「コレを選ぶ」みたいに、日常の中に特別美しい何かを見つけるんです。その潔さが一緒にいてすごく新鮮で、よく観察していました。次は、一体何をするんだろう......?って。

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岡本 やっぱりその現場に行かないとわからないものって必ずあって、そういう自然な流れで見つけたものを取り込んでいきたいなっていう気持ちがもともとベースにあります。もちろん日本でもそうですし、そういう気持ちはいつもありますね。
向田 〈ラリトプール〉のパッケージに使った紙の紙質も。ネパールって物資が豊富にあるわけではない国なので、紙がちょっとザラザラしていたり、薄かったり、均一じゃなかったり......でも逆に、それがネパールの良さでもあって、この紙が繊細な薄手のものを選んでいるっていうのもやっぱり魅力なんです。
岡本 実際、パッケージに使った紙自体は、日本の印刷屋さんで頼んだ普通の紙。最初、ネパールで印刷しようと思ったら、印刷が擦れると言われました。化粧品というのは、表記しなければならない情報が沢山あるので現実的に難しかったんです。そういうことから、ネパールでしか作らないというようなこだわりはなくていいと思いました。このパッケージの紙は、スーパーでお肉を包んだりするような紙の紙質なんですよ。それを日本風に、ご祝儀袋と同じ折り方で包んでいます。色だけは、ちゃんとネパールから要素を取り入れました。

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ネパールの子どもたちが結ぶ、小さな飾り紐

向田 日本の伝統とネパールの要素をミックスさせるのはすごい良かったと思います。パッケージに起用された紐結びがどんなストーリーがあるか知っていますか?もちろんこれも岡本さんにデザインをしていただきましたが、この小さな飾り紐は、八つ字結びという江戸時代から続く飾り結びになります。
岡本 日常的にあるプロダクトだと〈ラリトプール〉のように手作業や手間、コストをかけることをあまりしませんが、〈ラリトプール〉には、そういうストーリーがちゃんとあるので敢えてちょっと手作業の風合いを残したかったんです。ネパールにいる子どもたちがこういったプロダクトに参加している意識も持てるようなデザインにしなきゃいけないし、買う人もそういうのを視覚的になんとなく感じて貰えたらいいと思いデザインしました。紐なしでも後ろにテープを貼っちゃえば完成するところ、敢えて手間のかかるデザインを取入れました。

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向田 8〜10歳の彼女たちは、まだ手が小さいんですよ。シェルターから学校へ通い、学校の空き時間でシェルターに帰ってきて手作業の仕事をして生活をしています。〈ラリトプール〉は、彼女たちの仕事のひとつに当たるんです。
岡本 私の中で“良いデザイン”というのは、何か色々くっつけるのではなくて、あるものを工夫して作るっていうのが特徴のひとつだと思っています。
向田 でも、まず私がこの紐結び方をできなきゃいけないじゃないですか。ネパールへ教えに行くのは私しかいないから。彼女たちは、まずわかりやすい太い紐から始めて、その後に細い紐に切り替えていきました。よく見るとみんな個性があってかわいいんです。ずっと一緒に作業をしているから「この小ぶりの結びはあの子」って大体わかってきて......(笑)。そういうのをわかると、これはダメ、これはダメって弾いたものがだんだん弾けなくなってきちゃって、みんなが少しでも上達していくのを見守りたくなります。

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岡本 後からわかったことなんですけど、ネパールの衛生環境ってやっぱり基本的には良くないんです。そうすると、化粧品のパッケージを作る時にやっぱり手が汚れてて、そんな手で結んだ紐が汚れちゃうんですよね。
向田 白い紐を結んでいたはずなのに、完成した紐が茶色くなってる(笑)。「できた!」って嬉しそうに見せくれるんですけど、みんなの手には茶色の紐。なぜ......?って(笑)。だから、まず手を洗うことからスタートしようってルールを決めたんです。作り方の説明のひとつめは、"1、60センチに切る"だったんですけど、"0、手を洗う"というのを書き加えて、きれいな白い紐が結べるようにトライして貰いました。
岡本 化粧品を扱う時は手を洗って清潔にすることが当たり前なんですけど、そういうことが当たり前じゃない場所で作業をしているとそんな発見が沢山あります。

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ネパールの大地が育んだ自然の偉大さ

向田 全部がコピーのように均質に整っていることが当たり前の場所に慣れ過ぎているから、私たちが地球に生きていることや、虫や、草花、動物などが沢山存在する中の生物のひとつだってことを忘れちゃうんですよ。
岡本 ......忘れちゃいますね。
向田 ネパールに行って川を渡ったり、土砂の上を歩いたり、そんな大自然の中を踏み込んで行くと、「あぁ、大きな自然の流れの中に生かして貰っているんだな」っていう気持ちが湧いてくるんです。言葉にするとなんか軽々しいんですけど、本当にそうだと思うんですよ。それで、岡本さんと一緒に車で行ったネパールのカトマンズから車で3〜4時間かけて到着するような場所って、山や森だけがあってほかに本当になにもないんです。そういう場所で、人々が自然とともに暮らしてるんです。人の家に、鶏や大きな豚、さまざまな動物が一緒に生きているんですよ。そうやって人間が循環の中に美しく存在するというか。ネパールにいると、自然の脅威と大きさと、その中に生かされてると感じるんです。それを行ったり来たりすることで、ネパールと東京の美意識をミックスさせたものができあがったんだと思います。

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岡本 ラリトプールの今後の展開はどう考えているんですか?
向田 今後はアメリカを考えています。今は日本がメインなので、引き続き日本で力を入れつつ、アメリカで自社の直販をして卸のPR会社と組むことが理想。それまでは、アイテムを増やしていくつもりです。2016年始めにギフトラインを、来春にはベイビーラインを出そうと思っているので、完成したらお披露目会などしたいと思います。
岡本 〈SIRI SIRI〉は半年に1度デザインを起こしているので、是非、新作をチェックしてみてください。

※〈ラリトプール〉のお取り扱い店舗は、こちらをご覧ください。また、HP「Online-shop」では、バスソルトやソープバー、マルチバームなど、すべてのプロダクトを展開中!

PROFILE


20151118_bl_10.jpg 向田麻衣(むかいだ・まい)/〈Lalitpur〉代表。高校在学中にネパールを訪問し、女性の識字教育を行うNGOに参加。2013年5月にネパール産オーガニックスキンケアブランドLalitpur(ラリトプール)をスタートし、ネパールの女性の雇用創出と自尊心の回復に取り組んでいる。 lalitpur.jp
20151125_bl_12.jpg岡本菜穂(おかもと・なほ)/桑沢デザイン研究所スペースデザイン科在学中より、ジュエリー創作を開始。2006年、ジュエリーブランド〈SIRI SIRI〉設立。2012年、WAO企画監修『ゴシックチュール〜ファッションが伝統工芸と出会うとき〜』展にて若手注目デザイナー5組の内の1人として選出される。2015年、第23回桑沢賞受賞。日常生活の中で見過ごされてしまいがちな素材を、洗練されたジュエリーに昇華させる独特な世界を展開。 sirisiri.jp