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糸魚川の木を使ってお箸をつくる、<br>古民家「あきすけ」の図工クラス

写真:間部百合 文:yoyo. (VEGE しょくどう)

REPORT

糸魚川の木を使ってお箸をつくる、
古民家「あきすけ」の図工クラス

夏が始まったばかりの7月中旬、新潟の越後杉を使ったワークショップを糸魚川市越の不動山山荘「あきすけ」で開催。図工ユニット「sundiy(サンディ)」を講師に迎え、2週に分けて行われたこのワークショップでは、近隣で暮らす親子約40名が集い、自分だけのお箸、"マイ箸"づくりに奮闘しました。糸魚川市は、海に面していながらも面積の約9割を森林が占めるエリア。緑に恵まれたこの場所で、木材のワークショップを行うことになったきっかけを、イベントを主催した料理家のyoyo.さんが教えてくれました。

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ワークショップのために東京から招いた講師は、舞台美術家・佐々木文美さんと建築家・岡真由美さんによる図工ユニット「sundiy(サンディ)」。「サンディ」の名前は、日曜日(Sunday)に、"身近にある環境のおもしろさを発見できる装置づくり(D.I.Y.)"を考えることに由来する。今回、そんなふたりに声をかけたきっかけは、過去に東京で行っていたお箸づくりのワークショップをここ古民家(山荘)「あきすけ」でやってもらいたいと思ったからだ。そもそも私は、「地域おこし協力隊」という総務省の制度を利用して、人口の減少や高齢化が進む、この糸魚川市に在住。そこで実現したのが、このイベントだ。

地元・糸魚川で木材探し

糸魚川市役所・商工農林課の伊井ちひろさんにワークショップの計画の話をしてみると、ありがたいことに「やりましょう! 」のひと言。さっそく、糸魚川産の木材探しへ出かけることに。まずは、糸魚川駅から10分ほど海沿いに車を走らせ「ぬながわ森林組合」に訪れた。広い敷地には大きな杉の丸太がいくつも積み上げられているが、お箸にするための木材になるのは、これらの木が建材屋に渡ってからのようだ。

その足で近くの建材屋「ランバー羽生」へ出向くことに。そこで、やっと糸魚川の杉から生まれた板や柱を発見。実は、2016年に起きた「糸魚川市大規模火災」で被災した地域を再建させるために多くの木材が使われているそう。とても忙しそうにしていた社長の田鹿 勝さんは、今回のワークショップのために快く木材を提供してくれた。お箸のためにちょうどいい大きさにカットしてくれたのは、地元の建具屋「原木工」。ここ糸魚川には、木にまつわるたくさんの仕事があることを実感。そうやって地域の人たちの手を借りながら集められた木材が、「サンディ」によるワークショップのお箸づくりキットに使われた。

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親子で夢中になれる、マイ箸づくり

いよいよワークショップの当日。子連れでイベントに参加できるように、会場には、「おもちゃや木のこ」による木のおもちゃで遊べるキッズスペースを設置。配られたキットの中には、これからお箸となる杉の棒が4本、竹のお椀、糸魚川「ヒスイ海岸」の箸置きとなる石。長いお箸を作るか、短いお箸を作るか、参加者たちは、木を眺め、触感を確かめ、そして慎重に彫刻刀の刃を入れる。最初はおぼつかない手つきで木を削り始めていながらも、1時間ほど経てば、手でしっかりと木を抑え、より細く丸みが出るようにもくもくと削ることに集中。

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2時間が過ぎる頃には、お箸はついに仕上げ段階に。仕上げは、自分の好みのグリップになるよう、紙やすりで丁寧にやすりがけしたあとに、オイルでコーティングしていく。尖るように細いもの、太く丸いもの、両端が細くなるようデザインされたもの。できあがったそれぞれのお箸は、作る人の個性が生きた、まさに世界に1つだけの"マイ箸"。そんなお箸を持って、屋外では流しそうめんがスタート。がんばってお箸を作ったご褒美に、木の香り漂うそうめんや野菜をみんなで味わう。「自分で作ったお箸って、かわいい」「今日からこのお箸を使う!」と、参加者からは楽しそうな声が聞こえた。

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あがりこの森

当初「ワークショップをやるなら地元の木」と思っていたけれど、そもそもこの地域にある木のことをよく知らない。そんな時に、ちょうど地元博物館主催の「巨木見学ツアー」があるというから参加することにした。目指すは、糸魚川市役所から北へ車を走らせること約30分のところにある「大所(おおどころ)の森」(「糸魚川ユネスコ世界ジオパーク」内)へ。駐車場から森まではコンクリートの道を歩く。道中で見る草や木々を市民によるジオパークガイドの方が丁寧に教えてくれた。そして、森に到着。それまでのコンクリート道が嘘のように、足元に広がるのはふかふかの落ち葉の床。根っこよりも数メートルほど高い位置から伸びる枝、枝の先で青々と育った葉と葉の間から差し込む木漏れ日、何か大きなものに抱かれているような感覚になる森だ。

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そして目の前に現れたのは、樹齢300年の天然ブナと天然杉の巨木。幹はいくつも枝分かれし、グニャリと好き勝手な方向に伸びている。太さも形もさまざまで、ひとつの木にさらに別の木が絡まりついたようなものや、幹が岩を突き破っているもの、表皮がペロンと垂れ下がっているものなど、なんとも個性的なうえに生命力の強さを感じるものばかりだ。これらの木は「あがりこ=上がり子」と呼ばれ、その昔、人が伐採した木の幹から新芽(子)が生まれ、長い月日を経て成長(上がり)するにつれ、このように造形をしていくそうだ。2~3メートルの高さまで枝分かれせず幹がまっすぐに伸びているのは、車も機械もなかった時代、雪が積もる時期に伐採していたからだそう。ちなみに、伐採した木の運搬はソリを使い雪上を滑らせて行なっていたんだとか。

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切り出した木々は、板や柱として家材になり、風呂を沸かす薪になり、ごはんをつくる竃や囲炉に組まれたり、さらには表皮を煮出して繊維を染め、薬として飲用され‥‥、衣食住のさまざまなところで役立っていた自らの手で森から木を採ってきては生活のために加工した。そうやって、人が森からいろいろなものをもらいつつも調和して生きていた時代の象徴ともいえる「あがりこの巨木」は、逞しくてとても美しかった。

木と人のこれからの付き合い方

家、テーブル、椅子、食器、まないた、カトラリー、本、ノート。ふと身の回りを振り返ると、私たちの生活のなかには森からもらっているものがたくさんある。でも、森の偉大さや、伐採される木の大きさ、それらが育つ環境を、私たちが普段の生活のなかで意識することはほとんどない。だからこそ、今回のワークショップで毎日使うお箸を初めから自分の手で作ってみたら、新しい角度から世界を見渡せるような気がした。

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PROFILE

yoyo. (ヨーヨー)/料理家、「VEGEG しょくどう」主宰。“たべることはいきること。おいしいやさいはみんなのいのちをつなぐ。”をテーマに掲げる根っからの野菜好き。南インドで完全菜食に出会ったことをきっかけに、2007年頃より野菜を中心としたご飯づくりを開始。実店舗のない「VEGE しょくどう」では、アート系イベントを中心に出店。食への興味趣くままに国内外を飛びまわる。