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『SOMETHING IN THE AIR』<br>-the soul of quiet light and shadow layer-<br>お茶を巡る音のストーリー<br>COMPUMA feat. 竹久 圏

COMPUMA、竹久 圏(KIRIHITO)

ポートレート写真:小原泰広 文:草深早希 撮影協力:代官山Bird

INTERVIEW

『SOMETHING IN THE AIR』
-the soul of quiet light and shadow layer-
お茶を巡る音のストーリー
COMPUMA feat. 竹久 圏

慶應元年(1865年)、宇治茶の本場・京都山城で創業してから今年150年を迎える老舗茶問屋「宇治香園」。お茶の色や香り、味を利き分け、丁寧にブレンドすることにより、代々受け継がれてきた「宇治香園」の銘柄を守る茶師の小嶋宏一さんは、「150周年という記念すべき年には、なにか"茶"と"音"と"光"が出会うことをしたい」と話します。近年、「Soup Stock Tokyo」店内のBGMになっているコンピレーションアルバムを制作し、DJやミュージックセレクターを中心に多方面で活躍するCOMPUMAこと松永耕一さんが、バンド「KIRIHITO」のギタリストとして知られる竹久 圏さんをフィーチャーした『SOMETHING IN THE AIR − the soul of quiet light and shadow layer』は、「宇治香園」の創業150年を記念し制作された音楽作品。今作は、京都の山奥にひっそりと佇む茶園をはじめ、「宇治香園」の製造工場などで行なわれたフィールド・レコーディングやギター演奏を中心に、どこか親しみさえ覚える、暮らしに溶け込むような心地良いエレクトロニクスです。お茶に捧げられた音のストーリーは、どのようにして生まれたのでしょうか。その背景について、COMPUMAさんと竹久さんのふたりにお話を聞きました。

ーー「宇治香園」創業150周年という記念すべき機会にリリースされる『SOMETHING IN THE AIR』シリーズ。今回のアルバム制作には、どのような経緯があったのですか?

COMPUMA 最初に『SOMETHING IN THE AIR』を制作したのは、2011年の年の瀬。ご存知の通り、東日本大震災があった年で様々な意味で震災以前と以降では世界が大きく変わってしまいました。当時は意識をしていませんでしたが、DJとしての表現についても大きく考え方が変化していった時期でもあり、パーティーDJをやることが辛くて。そんな時に、家の中のCD棚にしばらく眠っていた、かつて大型CDショップでのバイヤー時代に扱っていた電子音楽や実験音楽、フィールド・レコーディング音響作品などを再び聴いたことで、自分の中で忘れていた、このような音楽へのよろこびが再燃したんです。そういった音源をミックスすることで、リズムやビートが無いながらもどこかストーリーテリングできるような表現を模索しようと考えました。さらに、震災直後2011年春、竹久さんと組んでいたユニット「Umi No Yeah!」でヨーロッパツアーに行った時に触れた体験や景色風景などにも影響を受け『SOMETHING IN THE AIR』を制作することに辿り着きました。個人的に竹久さんのソロギターが大好きで、いつか彼のソロギター作品をリリースしたいという気持ちもありましたし、その頃から竹久さんのギターは自分の中のイメージにあったことが今に繋がっていると思います。昨年の春、京都にある老舗茶問屋「宇治香園」の小嶋さんから今回のお話をいただきました。当初はコンピレーションアルバムを制作したいということを伺いましたが、小嶋さんとコミュニケーションを深めていく中で最終的にオリジナル音源を制作することに至ったんです。

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ーー実際に現地へ足を運んだと聞きました。制作はどのように進行されたのですか?

COMPUMA 最初に小嶋さんからお話を伺った時は、正直、一般的にイメージする日本庭園のような"お茶""お茶屋さん"を思い浮かべたんです。昨年の夏、小嶋さんから「今が一番いい時期なので、まずはすべての茶園を見てください」との話を受け、実際に「宇治香園」が使用されてるいくつかの茶園へ見学しに行ったんです。そこで連れて行ってもらったどの茶園もホント凄かったんです。普通、茶畑というものは、新幹線から見えるような段々畑に広がるのどかな......というような光景をイメージすると思いますが、連れて行ってもらったいくつかの茶園は、なんというか、京都南部の山間部の深い森の奥にひっそりと佇んでたんですよね。
竹久 圏(以下、竹久) 神秘的な場所。
COMPUMA 「うちで育てている数々の茶園はすごい環境にあるんですよ!」という話を小嶋さんから伺っていたんですけど、実際に行ってみたら本当にすごかったんです!! いくつもの茶園で体験したことが、今回、制作する上で大きく影響を与えたことは間違いないです。

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ーー絶好の環境下にある茶園でどのようにフィールド・レコーディングをされたんですか?

COMPUMA 録音マイクもいくつか使用したり、いろいろなことを試してみました。茶園はもちろん、近くの小川のせせらぎや森の音などを午前中と午後、夜と早朝などに時間帯を分け、1回の録音に半日以上、数日に分けてあれこれ試行錯誤を重ねながら自然音を採集していきました。それと同時に、竹久さんには、「そこで果たしてどんな感じで録音できるか?」という実験も含めて茶園でギターを弾いてもらいました。そこでのフレーズや演奏がアルバムの大きな基にもなっています。

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「茶園」という自然環境が紡ぐ音

――アルバムの中では鳥のさえずりや虫の羽音など様々な自然環境の音が収録されていますが、その中でも、水の流れる音が木琴を叩くように響くことが印象的でした

竹久 あれは、茶園の横に流れる小川のせせらぎの音なんです。かなり臨場感のある良い音が録れたんですよ。コロコロした音でね。
COMPUMA さらに、小川に手を入れて、水の中の石を擦ったり動かしてみたりしたんですよ。そうすると、レゲエの「ダブ」みたいに、水流を通して石の擦れる音がエフェクティヴに鳴ったりして、自然のテープミュージックというか電子音楽というか、ダブ・ミックスのエフェクトにも通じるような効果音が録音されると同時に、まさかのアルファ波みたいなものまで感じてしまったり(笑)。フィールド・レコーディングを通じて天然のトリップ・サウンドのような音が録れた気分になりました。あと、ずっと茶園や山間部で録音していると、雨も降ってないのにずっと水の流れるような音が録音されていることに気づいたんです。何度録音してもどうしてもそういう水の音が入るので「なんでだろう?」と不思議に思い、よく耳を澄まして聴いてみた時に、杉の森の遠くから山の山頂からふもとへ向かってゆっくりと水が流れ落ちている音だということに気づきました。梅雨には、山ヒルが大量発生してなかなかの恐怖体験をしたり......。いや〜、思い返すとホント恐ろしかったです。そんなエピソードの数々に、普段、東京での生活では出会えない山や自然のスケールの雄大さを感じました。
竹久 ラストのカチャ、カチャ、っていう機械音はお茶の製造工場なんです。
COMPUMA 「宇治香園」の工場も実際に見学させてもらって、スタッフのみなさんから生まれる作業音から、作業中のさまざまな機械音までをくまなく録音させてもらいました。今回の作品にはそこまで反映できませんでしたが、工場の音だけでももうひとつ作品がつくれそうなくらいの素材と量は集めました(笑)。最後に流れる機械音は、常日頃「宇治香園」で流れているお茶の製造機の作業音なんですよ。今回の作品『SOMETHING IN THE AIR』では、茶園の茶葉がゆっくり時間をかけて芽生え、大地から水分を吸収しながら育ち、そして、ようやく収穫された茶葉が最終的にパッケージされるような行程が巡るように日々繰り返されるイメージが自分の中にぼんやりとあって、そんな茶葉と数々の茶園の物語を音楽として起承転結にストーリーテリングできたらと制作を進めました。非日常的な超自然な環境から生育する茶葉が、最終的にはお茶として人々の日常の生活の中に宿っていくというような意味においても、茶葉と「宇治香園」の日常が繋がっていく様子をイマジナリーにドキュメントしてみました。

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曲に秘められた、静かなメッセージ

竹久 そういえば、ある童謡にインスパイアされたギターの逆回転の音も収録したんです。
COMPUMA シーン6のアルバムのクライマックスにあたるパートがそうなんですけど、「この作品は、制作スタッフや関係者、顧客の方を含めて、恐らく老若男女、幅広い年齢層の方に聴かれるであろう」と、小嶋さんから伺っていたので、誰もが知っているであろう童謡を自分たちのアレンジで制作してみることも当初候補の中にありました。それで、たくさんの童謡をリサーチすることから作業を始める中で、ある童謡が気になり、改めて向かい合ったんです。それは、戦前戦後で歌詞や曲名までもが変わっていたことや、子どもの頃から慣れ親しんで聴いていた歌詞の意味を改めて知り、「そんな意味がこめられていたのか?」と、非常に考えさせられることが大きい童謡だったんです。メッセージとまでは言えないんですけど、自分たちなりに静かな祈りを込めさせていただきました。
竹久 曲をガット・ギターでクラシックのようにアレンジしつつ録音したんですが、もうひと捻りないと曲が活きないと思った時に録音したものを逆から聴いてみたんです。その瞬間、ドキッとしました。これはいけるんじゃないかなって。これが最初に取っ掛かりになった曲で、あとはいろんな素材を集めて制作したフレーズが茶園に行った後にできてきたんです。
COMPUMA 茶園で楽器を録音するのも面白かったです。山の茶園は独特の音響で、それが日によっても時間帯によっても全然響き方が違うんですよ! すごく音が響くこともあれば、変に内に音が籠っちゃって全然広がらなかったり。あれはすごく面白い体験になりましたね。

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ーー静かに序章が始まり、穏やかなクライマックスを迎える。その曲の流れに、アルバムを通してストーリーを感じました

竹久 このアルバムは良い意味で松永さんがこれまで発表しているシリーズ『SOMETHING IN THE AIR』と同じ質感のある作品になっていると思います。だから、このアルバムが『SOMETHING IN THE AIR』ならではの曲の流れになって良かったと思いましたけどね。
COMPUMA ここ数年で3つの作品が生まれた『SOMETHING IN THE AIR』は、自分にとっても非常に思い入れのあるMIX CDシリーズで、ビートがない素材を想像力で組み合わせながらミックスしているものが多いんです。そして、そのミックスされたイマジナリーなサウンドイメージが少しずつ変化していきながら、どこか起承転結に着地を目指すようなスタイルで制作してきました。今作では、その方法論でいちから素材をつくり、それらの素材を紡いでひとつの作品に仕上げてみました。

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――ライナーノーツの茶園の写真やジャケットデザイン、そして、ミュージックビデオ。どれも今回のイメージに合う素敵な仕様でアルバム制作に携わるスタッフの華やかさを伺えます。

COMPUMA アルバムジャケットのデザインは、日頃からイベントのフライヤーアートワークでも大変お世話になっている画家の五木田智央さんとデザイナーの鈴木 聖さん。そして、写真家の塩田正幸さんにも参加していただくことになり、お願いした全員が茶園を見学に行きました。自分にとって信頼できるメンバーなので、ホント心強い限りでした。音の制作は、ギター演奏をはじめ、様々なアイデアと技術、インスピレーションをいただいた竹久 圏さん、そして、スタジオ録音でエンジニアリングとマスタリングを担当してくれたハッチさんも欠かせないメンバーのひとり。この音源は、この3人での共同作業で作り上げた作品です。ここ数年、自分としてもMIX CDからもう一歩踏み込んだものを表現したいなと考えていたので、まさか、このようなカタチで、オリジナル音源として新しい『SOMETHING IN THE AIR』をリリースできたことは本当に嬉しく思っています。「宇治香園」の小嶋さんからこのような貴重な機会をいただき、今回のアルバムを制作できたことはとても感慨深いですね。

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▲ 宇治香園150年記念のノベルティは、画家・五木田智央さんとデザイナー・鈴木聖さんによる今作ジャケットのアートワークを限定パッケージにした煎茶「清風」ティーバッグ(写真中央)と、COMPUMAさんによるセレクトCDR「宇治香園創業150年によせて」(写真右)。インナースリーヴには、写真家・塩田正幸さんが撮り下ろした3点の茶園を収録。 ▼VJユニット「onnacodomo」がディレクションを担当したアルバム予告編のミュージック・ビデオも必見。

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INFORMATION


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『SOMETHING IN THE AIR − the soul of quiet light and shadow layer』
COMPUMA feat. 竹久 圏 ¥2,000|SOMETHING ABOUT


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COMPUMA(コンピューマ)/松永耕一、1968年熊本生まれ。バンド「ADS(アステロイド・デザート・ソングス)」「スマーフ男組」のメンバー。ユニット「SPACE MCEE'Z(ロボ宙&Zen-La-Rock)」とのセッションを経て、近年は DJとして国内外で活躍するDJとの共演やサポートをする。日本全国を駆け巡り、ジャンルを横断したフレッシュでユニークな音楽世界を探求。自身のレーベル「SOMETHING ABOUT」からMIX CDの新たな提案を試みたサウンドスケープなミックス『SOMETHING IN THE AIR』シリーズなどの意欲作に加え、BGMをテーマに選曲したコンピレーションCD『Soup Stock Tokyoの音楽』を発表。音楽にまつわる様々なシーンで幅広く活動。11月には「em record」よりリミックス、リコンストラクトを手掛けた初の12インチ・アナログEPをリリース予定。 compuma.blogspot.jp

竹久 圏(たけひさ・けん)/ギタリスト兼ボーカリスト兼コンポーザー兼プロデューサー。1994年、DUO編成のバンド「KIRIHITO」結成。ギター、ボーカル、シンセ(足)を同時にプレイするスタイルで、ハイテンションなオリジナルサウンドを構築。その唯一無比のサウンドとライブパフォーマンスは海外での評価も高く、通算4枚のアルバムをリリース。2006年に発表したソロアルバム『Yia sas! / Takehisa Ken & The Spectacrewz (power shovel audio)』は、ダブ、ハウス、ロック、ヒップホップ、エレクトロニカなどあらゆるジャンルを独特のギターリフで繋ぐ大作となる。バンドの他にも映画音楽の制作やバンドプロデューサーとして多彩に活動。現在、ラッパー・田我流とのアルバムを製作中。 takehisaken.com

宇治香園(うじこうえん)/慶應元年(1865年)に京都山城で創業し、2015年に創業150年を迎えた、茶ひとすじの老舗茶問屋。これまで大切にしてきた、茶をのむ、あじわう、という目に見えない体験をより多くの人に広めてゆくため、さまざまなプロジェクトを展開中。 ujikoen.co.jp