工藤キキの貧乏サヴァラン

vol.03キキの雑草スタイル研究所

文:工藤キキ
ロゴ:石黒景太

「幸、阿佐ヶ谷に、魔利がもののいいのを持っていくし、買った値段も瑕も正直に言うせいか、高く買って呉れる店があって、まだ在庫品の多かった頃には、五六枚持ちこめば二万円位には直ぐなったものである。よくよく売るものがない日には、魔利は寝台に腰をかけて、部屋の中を見廻す。そうして畳を剥がして売りたいなぁ、と思うのである」
----森茉莉『贅沢貧乏』より


 キキとはいえ、たまには友人らと連れ立ち、人気ブランドの展示会に行くこともある。よって、流行の服を持っていないこともない。しかし、黒いヘルメットにゲバルト棒(または防塵マスク)がよくお似合いの、昭和の忘れ形見、安保闘争での女学生のような、俗に言う〝安保顔〟が災いしてか? 誰かの気紛れでキキのファッションがお褒めにあずかったとしても、最後はいつもこう締められる「なんだ、古着かと思った」

 知り合い風を吹かせ、展示会で市場より安価で買わせて頂いても、古着だと思われてしまうなら真逆の宣伝効果である。展示会に招待をしてくれたご好意に後ろ足で砂をかけているようで、キキの良心は痛み、そして「友人価格で、6掛けね」とやさしい声をかけられも、懐も痛い。ミレニアムを10年も過ぎてもキキは、経済も流行も存在も昭和を抜け出せていない枯れすすきである。

 なぜなら、キキの着ている服のほとんどが!と言いたくはないが、多くが!百円である。

 上野御徒町の「ファッションリサイクル たんぽぽハウス」はキキのファッションの中心を司る。3フロアある店内にはレディース、メンズ、キッズを含めた気が遠くなるほど膨大な中古衣料品が、スタイルごとに分類され、そのほとんどがキキを歓喜させるポケットのコインで事足りる価格帯なのである。

 最新のブランドはさすがにないが、いわゆる婦人服のリサイクル品といった、流行の潮流に浮かんでは消えていく、肩パッドや寸足らず、ビッグシルエットなど、着る人を選ぶような特殊なデザインでも不思議と着こなしてしまうと自惚れるキキ。

 店内に貼られた注意書きによると、百円ならば洗濯をするよりも買って着替えたほうがマシだと、店の前に着ていた服を脱ぎ捨て去ってしまうような、上野・隅田川界隈のキキ同様のプロレタリアなお客も多く、そのあまりの安さに滞在時間を2時間も過ぎるとキキの経済観念も麻痺する。

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アッコりんに選んでもらったコーディネイト。左上から時計まわり:黒いジャンパースカート¥300、ブラウス¥100、ローファー¥800/赤いセーター¥300、キュロット¥100/ジャケット(スカートブラウス付)¥500、ニットのタンクトップ¥100、キュロット¥100/ハイウエストデニム¥100、黄色いシャツはイヴサンローラン¥800!

 百円よし、三百円はまあよし、五百円までだったらなんとか出せる。八百円になるとキキは警戒し、それ以上の金額になるとキキは顔を歪め、断末魔の表情をするので、たびたび一緒に買い物に行く友人のアッコりんも、それ以上はすすめない。「イヴサンローランのロゴが入ったトレーナーが八百円......高い!」という具合である。
 半額の赤札がつく歳末セールは、キキの今後の日本での暮らしを危ぶむものだった。だって、百円が五十円。とはいえ、無理して買った最新モードとリサイクル品を混合しても、キキが着ているのであれば「古着」だと指差されることに変わりはない。

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写真左:ファッションリサイクル たんぽぽハウス 上野広小路店(東京都台東区上野3-17-6 TEL:03-3836-9435 www.haneq.co.jp)、右:イメージ・コンサルタント渡辺彰子さん(アッコりん)また、キキが根城にしている、渋谷の静岡おでん屋「RO
KU」の女将の顔も持つ。

PROFILE

くどう・きき/アートライター。主にアートを媒介としたカルチャーコラムの執筆や展覧会のキュレーションなどを手がける。著書に美術批評集『post no future --未分化のアートピア』(河出書房新社)など。隔月でART ZINE『LET DOWN』もリリースしている。www.letdownmag.blogspot.com そんなわけで、これからも貧乏だけど志だけは少し高い生活臭を紹介していきたいと思います。よろしくお願いします。

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