工藤キキの貧乏サヴァラン

vol.06環状線上のキキ。 プライドは先週捨てました

文:工藤キキ
ロゴ:石黒景太

「マリアとしては、身につけるものの色彩には神経質だが、質の不調和の方は念頭にない。仕立代を入れて九千円はするお召に染めさせた帯で、三百八十円の編み袋を持って歩く。何が透けて見えようが、春先には半襟とそこだけが白いということが肝心であり、又は、着るものには使えない柔い色をどこかにつける為に、水色の手袋を嵌めたり、青磁色の袋を持ったりするということだけが重大であった」
----森茉莉『贅沢貧乏』「マリアはマリア」より


キキのワードローブのほとんどが上野のリサイクルショップ「たんぽぽハウス」にて各数百円で仕入れている話は以前させて頂いたが、いくら安物買いとはいえ品質表示だけには常に睨みをきかせているのがキキだ。

連れ立った友人が「安いね~」とデザインや色合い重視で手に取ったマフラーが、こと化学繊維であろうものなら「ウール!ウールにしろ!」と罵り、血眼になり「カシミヤ」や「シルク」、さもなければ「コットン100%」をリサイクル品の山から探しだす。容赦なく基礎代謝が堕ちていくなか、化繊で暖まるような柔なキキではない。そして、デザイン性はさて置きこちとら、カシミヤのコートが、デパートで、プロパー(正規値段)で買えるようなご身分ではないのだ。

その代わりに幼い頃から「靴の汚い奴はパンツも汚い!」とキキはパッパから罵られてきたので、持ち物は大事に。足下には細心の注意をはらってきたつもりなのである。そう、革靴も磨いていれば長く履けるわけだ。しかし、つもりはつもり。汚い靴とパンツを見比べないまま大人になったキキの足下は、今後は見ないで頂きたい。
 
キキは、はやり廃り効果で、捨てる人がいて拾う人による「キャッチ&リリース」の構図を別段恥ずかしいと思わない。とはいえ、身につけるものは趣味があるので好きずきだが、技術の循環はされるべきだと、キキは思う。

んなわけで、炊飯釜が高級化しているのはご存知かしら。「剛熱ダイヤモンド銀釜」に「パワー圧力炊飯」など、炊飯器は日々進化している。

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玄米のおかゆが美味しく炊けるのが素晴らしい。しかも米1合でも、おかゆは夢広がりで増える。

先日、長年連れ添った炊飯器に寿命が訪れ、キキもようやくIHの恩恵にあずかることになった。高級釜ではないにせよ、やはり美味しい。同じ安い玄米でも、ぜんぜん違う。だけど、いくら長く使えるからといって、高級釜に十万円叩ける日がくるのかしらん?とキキから新しい名案です。

最新家電が大好きな家電芸人さんやお金持ちの方が、どんどん新しい技術を試して、いつまでも大事にしないで、どんどん新しいものに買い替えて、古いものは廉価で放出するのはどうかしら。実際問題、量販店で安くなっても買えない人は多い。もし「おまえ金持ちおれ貧乏」といった“言葉”で分け隔てることになっても、そこに最新技術が循環しているなら素晴らしいことだと思うのです。家電の向上は、デザインとはまた違い、ダイレクトに実生活に影響を及ぼすわけで、使える技術が多くの人に行き渡らない方が、MOTTA INAIと思うキキ「頑張って稼げばいいじゃん」なんて野暮なことは言わないで、お金持ちの衆。

そんなわけで、ヤフーオークションに潜む、家電の買い替えが好きそうなお金持ちを、目を皿のようにしてチェックする、キキなのであった。

PROFILE

くどう・きき/アートライター。主にアートを媒介としたカルチャーコラムの執筆や展覧会のキュレーションなどを手がける。著書に美術批評集『post no future --未分化のアートピア』(河出書房新社)など。隔月でART ZINE『LET DOWN』もリリースしている。www.letdownmag.blogspot.com そんなわけで、これからも貧乏だけど志だけは少し高い生活臭を紹介していきたいと思います。よろしくお願いします。

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