工藤キキの貧乏サヴァラン

vol.09"宿借りぐらしのキキエッティ"

文:工藤キキ
ロゴ:石黒景太

「児童の直感しか材料があろうが、無かろうが、それを使って何か書いていなくては、貯金が0になればその日から生活不可能である。小説以外のことといっては女中もできないふぬけであって、(鴻田文の真似をして待合女中を志願すれば半日で追い出される。芸者よりもあとから起きたのではどうにもならないのである)そうなればどこかの往来に座って、人の投げてくれる金を拾うより他にいい考えもない」
││森茉莉『贅沢貧乏』より

 一身上の都合で、ただいま転々と友人宅を渡り歩く、居候の身のキキである。居候......他人の家に世話になり養ってもらうこと......。ご多分に漏れず、非常に響きの悪い言葉である。

 かつて自宅のあったキキも「こうやってドアを開ければ、地球が私のお家なの、ただいまー」と、パタパタとドアを開け閉めするジェスチャーを繰り返す先輩を連日お泊めしたことがあるが、東京の狭い住宅事情の上に、お茶だ飯だと上下関係が重なると、どこでもドアを信仰するファンタジーの世界からの来客であっても、姥捨て山に背負って行きたくなる衝動にかられたこともアリエッティ?ナシエッティ?

 しかし、“共有する”という意識革命が起きた3・11後のいまだからこそ!我が身に降り掛かったいまだからこそ、キキは言いたい。共同生活ならぬ、“居候”という、その言葉の意味を問いそうではないかと。たしかジブリにもあったよね?居候ならぬ“借りぐらし”の話。そんなわけで、家主の居ぬ間の冷房ギンギンのお部屋で『借りぐらしのアリエッティ』を観たキキ。

 ......借りぐらしとは「人間の家から気づかれないように少しずつ必要なものを借りてくるの。石鹸やクッキーやお砂糖、電気やガスも、お父さんのおじいちゃんの時代からそうやってずっと暮らしているの......」と、主人公の小人のアリエッティは声高らかに語るのであった。

 なるへそ。キキも気づかれないようにコッソリ、台所のお酢を拝借してリンスに使ったりもするが、使ったものは買い足し、冷蔵庫の麦茶を飲んでは水を足してみたりなど......極力、元の状態に戻すように努めている。まあ常識よね。

 そんなわけで今後、多くの人が“借りぐらし”の可能性があるというのに先駆け、海外そして日本と、数々のお宅で居候をしてきた座敷童ならぬキキがお教えする豆知識。世界中のどこで世話になろうと、キキがとりわけ家主さまに日割りを突きつけられないように気を使っている話をしてみようか?ひとつは髪の毛である。特にキキの黒々とした黒髪は、フローリング映えするので、部屋に落ちている毛、気になる人には大変不愉快なものである。なかでも特に気をつけているのが、お風呂上がりの排水溝に溜まった毛。発つ鳥後を濁さず、必ず拾うべし。自分のものでも少々気持ち悪いものだけに、他人の毛というものなら大変気色悪い。そして、トイレットペーパーは常に先回りで補充すべし。髪と紙という、うすら寒い冗談を言っているわけではなく、オイルショックの時代から人々は紙、とりわけトイレットペーパーに対する執着は強く、居候の下の世話までするのは......と考える家主も多いはずだ! と、プロの居候を気取るキキは、今日もフローリングの上を前進し目を皿にしながら落ちた毛を拾う他にいい考えもない。

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1日の平均抜け毛の本数。成人で約50~100本程度抜けるといわれているそうです。家主の居ぬ間にヤドカリも制作......。

PROFILE

くどう・きき/アートライター。主にアートを媒介としたカルチャーコラムの執筆や展覧会のキュレーションなどを手がける。著書に美術批評集『post no future --未分化のアートピア』(河出書房新社)など。隔月でART ZINE『LET DOWN』もリリースしている。www.letdownmag.blogspot.com そんなわけで、これからも貧乏だけど志だけは少し高い生活臭を紹介していきたいと思います。よろしくお願いします。

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