工藤キキの貧乏サヴァラン

vol.11Let us eat them before they sucks us dry!

文:工藤キキ
ロゴ:石黒景太

「しかし私は思った。もうこの二切れは私の分である。誰もきっと手を出さないだろうと。この場合他の人々がその刺身を私のために取っておいて、箸を延ばさないと思うのはこれは常識である。そこまではよかった。ところが私が安心してジャガイモをたべていると、誰かの箸がお刺身の大皿に延びて、ああなんとゆうことだろう、一切れを挟んで口へ入れた。みるとそれはゆう子の幼い、小さな手だった。私はち、家来が箸を延ばして自分の膳部の上からをって行ったのを怒る殿様のように怒った。この上、残りの一切れを浚われては大変と、すぐにその一切れを御飯の上にのせたが、怒りは哀しみに変わった」
││森茉莉『貧乏サヴァラン』より


ところで、盛夏の東京では俗称“宿借りぐらしのキキエッティ”(vol.9参照)で通っていたが、現在友人宅のカウチを転々とする
“カウチ・サーファー”として極寒のニューヨークに滞在しているキキである。当然、放射能逃れであることは言うまでもない。日本ではマリアが好物だった平目は真っ先にセシウム過多になり、平目のお刺身を真っ赤になるほど醤油にひたし御飯の上にのせることなど、内部被曝を考えるともはや幻ごはん。とはいえ、アメリカでも遺伝子組み換えや放射能以外での食糧問題も根深いので、日本のみならずどこの世界の片隅にいても、マリアのような“食いしん坊精神”を忘れてしまいそうだが、情報を片手に食い続けてやると、キキはイカをほおばった......イカ。

アメリカで“イカ”といったら、いか八朗さんではなく、「ゴールドマン・サックス」といった1%に富を集中させようとする投資銀行のこと。俗称“バンパイア・スクイード”(人類の顔に貼り付いた吸血イカ野郎)として、もちろんOWS(オキュパイ・ウォール・ストリート)の標的とされている。んなわけで、老若男女からヒップなアーティストにミュージシャンなど、多くの人が関心を向けているOWS。せっかくNYにいるんだし、当然99%側のキキ、郷に入れば郷に従えと、あたしも是非オキュパってみたいなとこんな標語をつくってみた......

「Let us eat them before they sucks us dry!」(吸われてひからびちゃう前に、全部食べてしまえ!)。そして、食べることは生きることである。

んなわけで、かなり突発的だが近所のチャイナタウンで子イカをゲットし、はらわたを抜いてジャガイモと赤タマネギ、そしてディルやショウガなどの香味野菜をつめ、それをトマトソースで煮たものを串刺しにした“吸血イカ料理”なる一品を作り、いそいそとOWSの集会GA(ジェネラル・アッセンブリー)に持っていったのだった。OWSを一躍有名にしたズコッティパークにキャンプを張った占拠は警察によって解体されてしまったが、寒くなったこともあって現在は週に3回、場所を移動しながら屋内で集会は続いている。そして集会には必ず無料の食事が提供されるのだ。すごいよね。食事を共にしながら話すって感じで、食べるだけで帰っちゃう人に対しても気前よくふるまわれるのだ。

キッチンのお兄さんにもアポなしで「バンパイア・スクイードもってきましたー」と声をかけるも味見もせずに、何事もなかったようにほかのメニューとともに配られ、プロテスターズの腹の中へ収まっていった......つか、日本だったらもっといろんな行程ありそうなのに......つか、キキのイカ臭い思いつきを腹に収めてくれるOCCUPY、懐深い......。

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標語のポスターはクスリと笑われ、勝手に貼っていいよと、なんのトガメもなかった......OWSのなかにキッチンのチームがあって彼らがいつもメニューを考えて作ってる。ちなみにこの日は、玄米とブロッコリのグリルとラタトゥイユ的なものと、デザートはアップルクランブル!そして手前がバンパイア・スクイード......ほらお皿にのせられていく!

PROFILE

くどう・きき/アートライター。主にアートを媒介としたカルチャー・コラムの執筆や展覧会のキュレーションなどを手掛ける。著書に美術批評集「Post No Future 未分化のあーとびあ」(河出書房新社)など。んなわけでベースをNYに移しても変わらず貧乏だけど志しだけは少し高い生活臭を紹介していきたいと思います。Nylon JapanのブログではNYのアート情報を紹介してます。www.nylon.jp/blog.html よろしくお願いします。

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