工藤キキの貧乏サヴァラン

vol.14キキ、 中年の主張

文:工藤キキ
ロゴ:石黒景太

「----マリアはbuffetという英語を立ち食いだと理解した瞬間から、力を落としていた。立食形式というのは、(自分の分け前がなくて、取れればいくらでも取れるが、そうもいかない)という、形式である。昔、佐佐木信綱の園遊会で、広い庭園にあらゆる模擬店があったが、当時既に十二歳位になっていたので、妹のように堂々と歴訪できなかった恨みが未だに残っている。Buffetという形式は帰る時に、沢山の食べものに心を残して帰る気のする形式である----」
----森茉莉『贅沢貧乏』所収「降誕祭パアティー」より


 日本にいた頃、時折立ち寄るパーティーなどで大量に食べものが余っている現場などに遭遇すると、無意識にこの言葉があふれ出したキキ......タッパウェア。タッパウェア持ってくればよかったな......。しかし、ここニューヨークともなると、ゲトー・ファストフードでもヒップスター・カフェでもいかなる状況でもお持ち帰りできるような容器が用意されているうえに、余ったものは誰もが脇目もふらず当たり前のように持ち帰るので、キキの脳裏にタッパウェアがよぎる間もなく、総ざらいで消えていく。

 そんなわけで、もはや「奥ゆかしさ」を美徳とはいい難い日本から来たキキ。とはいえ恥も外聞も捨てて......とまでは言わぬが、声をあげていかねば変わらぬことは山ほどあると実感する日々。先日、図書館でDVDが無料で借りれると情報を聞きつけたキキ。英語の勉強にとレンタルしてみたが、近所&タダをいいことに10日ほど延滞したらなんと請求39ドル、ひー。一週間80ドルで生活しているキキは凍りついたまま退散。友人に話すと「そんな延滞料取られるのしらなかった!」って、もう一回図書館に行けと促され、一週間も間が空いてたがカクカクシカジカお願いしてみるとなんと9ドルまでディスカウント!キキは思った、言ったもの勝ち......ではあるが、日本だとたとえば役所とかお店の人とそんな話をした場合〝ルール〟とか〝マニュアル〟と話している感じだけど、いくら図書館の決まりがあるとはいえ結局は人間同士の問題なんだなと......ニューヨークに移ってからというもの〝自己主張〟をする機会がよくあるが、言ってみるとなんとなくまかり通るところがすごいね、この街。

 そんなわけなので、もちろんご存知の方も多いかと思いますが、ニューヨークでは「サジェスチョン・プライス」とか「ドネーション」とかが普通に機能してたりする。たとえばメトロポリタン美術館とか入場料が大人25ドルってあるけど、Suggestion Priceだから......ほんとは25欲しいけど、任意でどうぞ......というシステムなので、お金持ってる人や美術館を応援したい人はそのまま25ドル払えばいいし、頻繁に来てたり貧乏人は1ドルでもいいし、と。ライブのチャージがないところでは、演奏が終わるとザルやらバケツが回ってきて、ミュージシャンへのDo
nationを募るところも多いんだけど、横目でチェックしていると10ドル札をハラリと出す人もいるし1ドル札を突っ込む人もいるし、もちろん出さない人もいるけど、今夜は楽しんだ、これからも応援したい、そうして懐の都合から割り出される各自の金額が投げ込まれるんだけど「あの人が出してないから、あたしも......」という感覚は薄い。現在、キキの限界は2ドル。なのにもかかわらず......アイツ尤もらしいこと言ってんな。

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ちなみに、Suggestion Priceもそうだけど、NYの美術館は多くのところが週1で夕方から無料になる日がある。いつも長蛇の列になるけど、意外とNYの人って、文句も言わず列に並ぶんだよね......。

PROFILE

くどう・きき/工藤キキ/アートライター。主にアートを媒介としたカルチャー・コラムの執筆や展覧会のキュレーションなどを手掛ける。著書に美術批評集「Post No Future 未分化のあーとびあ」(河出書房新社)など。んなわけでベースをNYに移しても変わらず貧乏だけど志しだけは少し高い生活臭を紹介していきたいと思います。Nylon JapanのブログではNYのアート情報を紹介してます。www.nylon.jp/blog.html よろしくお願いします。

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