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THE TOKYO ART BOOK FAIR<br>ニューヨーク近代美術館 図書館司書 デイヴィッド・シニア<br>アーティストブックの歴史を辿る[前編]

写真:山本あゆみ、板垣旭洋、S.K 文:草深早希

REPORT

THE TOKYO ART BOOK FAIR
ニューヨーク近代美術館 図書館司書 デイヴィッド・シニア
アーティストブックの歴史を辿る[前編]

個性溢れるアーティストブックやZINEをつくる出版社やギャラリー、アーティストたち約300組が集結するアジアで最も大きいアートブックフェア「THE TOKYO ART BOOK FAIR」。第7回を迎える今年は、9月19日(土)・20日(日)・21日(月)のシルバーウィークに京都造形芸術大学・東北芸術工科大学 外苑キャンパスで開催されます! アートブックフェア開催に先駆け、ニューヨーク近代美術館(MoMA)で図書館司書を務めるデイヴィッド・シニアを招いた昨年のトークイベント「美術館とライブラリ」の模様を一部抜粋してご紹介します。

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▲ スライドに指をさしながらアートブックの歴史をレクチャーする、デイヴィッド・シニア。

「アーティストやデザイナー、建築家など、すべての方たちが印刷物について考える時の手助けになるようなものをみなさんに紹介したいと思います」
NY近代美術館の図書館司書を務め、美術館で行われる展覧会の企画にも携わるデイヴィット・シニアは、紹介を受けたあと、リラックスした雰囲気で話し始めます。

アーティストブックの始まり

最初は、19世紀後半のパリを代表する作家アルフォンス・アレーの話から始めたいと思います。彼は、キャバレーでパフォーマンスをするようなエンターテイナーでありながら絵も描いていて、時折、サロンのようなスペースで仲間たちと自分たちの絵画を展示していました。これは、ある展覧会の作品を集めた彼のポートフォリオ(写真下)。一面がただ真っ青な絵には〝初めて海を見た、若い航海者たちの驚き〟というタイトルがつけられています。

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▲ 左:アルフォンス・アレーの作品を集めたポートフォリオ集。青一面の絵のほかにも、赤一面の絵には〝赤海のほとりでトマトを食べる赤い鳥〟というタイトルがつけられている。 右:モノクロニズムを代表するフランスの画家イヴ・クラインの本にも、青一面の絵が挿入されている。

その話が、アイデアやコンセプトが最も重要であったとされる20世紀のコンセプチュアル・アートのルーツへと繋がりますが、20世紀のモノクロニズムを代表する画家イヴ・クラインが、最初に発表した作品は、本(写真上)だったんです。彼は確実に前述したアルフォンス・アレーのポートフォリオ集を見ていました。イヴ・クラインは自分が働いていた店で偶然、彼の本を見つけ、最初につくった作品がモノクローム・ペインティングでした。当時、イヴ・クラインはまだ絵画を発表したことがなかったので、彼の絵は本の中にしか存在しないものでした。

実験的な試みが与える出版物への影響力

イヴ・クラインの本が出版されてから10年後になりますが、『FUCK YOU Magazine』(写真下左)という、NYのローワー・イーストサイドで出版されたアート雑誌があります。編集者エド・サンダーはこの雑誌の出版を政治的な行為だと考えていて、表現の自由を求めるための意思表示だと捉えていました。彼が最も影響を受けていたのがウィリアム・バロウズ。特に、バロウズが公言していた「文化に対する完全なるアソート」という部分に強く影響を受けています。同じ時代に若者たちがミメオグラフという印刷技術を手にしたことによって新しく本を制作する術が手に入り、それによって若者たちが自力で出版するというムーブメント「ミメオグラフ革命」が初めて起こりました。

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▲ 左:1962年、編集者エド・サンダーにより制作されたアート誌『FUCK YOU Magazine』第2号。最も有名な特集号のカバーはアンディ・ウォーホルがデザインしたという。 右:1968年、編集者スチュアート・ブランドによって創刊されたカルチャー誌『Whole Earth Catalog』。地球上のすべてのものが紹介され、今もなお多くの人々に影響を与えている伝説の雑誌。

新しい「コミュニティ」をつくる若者へ向けた出版物

私が過去に『Whole Earth Catalog』(写真上右)をテーマに行った展覧会にも繋がりますが、この雑誌自体は情報サービスとして考えられていたものです。『Whole Earth Catalog』が創刊された1960年代後半は、アメリカ西海岸でコミューンと呼ばれるヒッピーの共同体がつくられ、自給自足で生活をしようとする人々が現れた時代でした。つまりそれは新しいコミュニティをつくろうとする若者向けの情報誌で、この雑誌の中心人物である編集者スチュアート・ブランドはそういった人々を支援するという意味でこの『Whole Earth Catalog』を出版しました。この雑誌には地球上のすべてのモノが登場しますが、特に「本」についてフォーカスされていました。モノや本を使うことで、新しいコミュニティがつくれるという方法をこの雑誌は提案していたのです。

※続きは、[中編]へ

PROFILE


20150910_ba_profile.jpgデイヴィッド・シニア(David Senior)/ニューヨーク近代美術館アートライブラリの司書。自費出版によるアートブックの収集を含むコレクション管理に携わる。図書館主催による展覧会の企画を多く手がけるほか、NY、LAアートブックフェアのイベントなども担当。また、毎年NYアートブックフェアにあわせ数々のアーティストと作品集を制作し出版するほか、多くのアート雑誌で執筆をしている。