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狐の夜祭り

写真:Patrick tsai  文:菅原良美

REPORT

狐の夜祭り

エココロ66号「山の家のおもち」で訪れた新潟県柏崎市は、雄大な自然が色濃く残る土地。お水もお米もおいしいこの地で「お餅つきがしたい!」と旅に出かけた私たちは、偶然にもひとつの小さなお祭りに出会いました。

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そのお祭りの名は、「狐の夜祭り」。25年の間、秋の収穫の時期に地域の人々によって受け継がれてきたお祭りです。
柏崎市に伝わる民話「藤五郎狐」に登場する、昔この地に棲んでいたとされる古狐と村人の話しがお祭りのモチーフになっていることから、「狐の夜祭り」と名付けられています。
舞台は、柏崎市の中でも奥深い山間地区、高柳町栃ヶ原地区~漆島地区。日が陰ってくる夕暮れ時から夜にかけて村中の“狐”が、歩き・踊り・歌います。お祭りが幕を上げるのは、栃ヶ原会場。黒姫山太鼓が響き渡る中、村中の子どもから大人まで集まると、畳一枚ほどの大きな“大油揚げ”作りが始まりました。油揚げは大豆約30kgで作った厚さ3㎝ほどの巨大な豆腐を油鍋に入れ、両面が香ばしいきつね色になるまでじっくりじっくり揚げていきます。

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その後行われるのは神事。地元の市長さんや役員などが列席して執り行われました。古い神社の中で手作りの狐のお面を頭に紋付袴姿で集うシーンは、まるで日本昔話の1シーンのようで、この土地の長い歴史の中に入り込んでいくような気持ちになるような不思議な感覚に。

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神事のあとは、村の参加者がお面をかぶり衣装をまとい、灯ろうをもって山道を歩く、灯ろう行列の始まりです。もうひとつの会場、漆島地区へ向かって歩く約3kmの山道。夕暮れから夜へ山の景色が変化していく中で、行列の先頭で奏でる横笛とその音に合わせて鳴る拍子木がこだまします。それにつられるように夜の狐たちは、舗装されていない道を一歩一歩確かめながら歩きます。真っ暗闇の中、たよりは、ゆらゆらゆれるロウソクの灯りだけ。大人も子どもも声をかけあいながら、夜の山へ吸い込まれるように進みます。その光景はとても幻想的で、自然と動物と人間が密接につながって暮らしていた時を思い起こさせるよう。それと同時に、秋の山の澄んだ空気に包まれた夜の山歩き体験は、ただただ楽しくワクワクするもの。笛の音色と子どもたちの楽しそうな声は、にぎやかで由緒あるお祭りの音として響き渡ります。

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山道をくだり灯りが見えてくると、もうひとつの会場・漆島地区に到着です。すっかり日も暮れて、辺りは真っ暗。険しい山道を歩いてきた参加者に、先ほど作った油揚げが振る舞われたり、きつねうどんやおにぎりなど出店もあったりと、おいしいごはんが待っていました。
お祭りの幕を閉じるのは、「きつねの踊り」。白装束に狐のお面をつけた踊り手が1人、2人とあらわれると、最後はたくさんの“狐”たちが集まり、炎を囲み、舞いはじめました。暗闇の中に浮かび上がる、ゆったりとしなやかに動く手足。その舞いをじっと見つめる人々の顔が、炎に照らされて浮かび上がります。最後、狐たちは列をつくり静かに暗く奥深い山へと戻っていきました。
この土地に暮らし、この土地を大切に想う人々によって作られている「狐の夜祭り」。きらびやかなお祭りの姿ではなく、物語を体感できるお祭り。代々伝わる民話をこれからも語り継ぐために、この景色の美しさを分かち合うために、これからもきっと丁寧に作られていくのだと思います。今年の秋も開催される予定なので、ぜひ狐の夜を体験しに行ってみてください。

INFORMATION

狐の夜祭り

問い合わせ: 柏崎市役所高柳町事務所地域振興課産業振興係
TEL: 0257-41-2241
MAIL: t-chiiki@city.kashiwazaki.niigata.jp
WEB: www.city.kashiwazaki.niigata.jp