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滋賀伝統「鮒ずし」に学ぶ、滋賀の発酵食[前編]<br>服部滋樹×野村友里×左嵜謙祐<br>滋賀、再発見プロジェクト「MUSUBU SHIGA」トークイベント

会場写真:阿部 健 文:草深早希

REPORT

滋賀伝統「鮒ずし」に学ぶ、滋賀の発酵食[前編]
服部滋樹×野村友里×左嵜謙祐
滋賀、再発見プロジェクト「MUSUBU SHIGA」トークイベント

本州の中央に位置する、滋賀。今もなお「湖国」と呼ばれるように、滋賀のシンボルである琵琶湖は、古くから人々の暮らしと密接にありました。そんな滋賀の知られざる魅力をリサーチャーとともに再発見するプロジェクト「湖と、陸と、人々と。MUSUBU SHIGA」が、イベント「MUSUBU SHIGA 空想 MUSEUM」を成安造形大学(滋賀県)と共催で今年2月に「VACANT」で開催。プロジェクトのテーマのひとつである食のリサーチャーとして「restaurant eatrip」を主宰する野村友里さんは、滋賀にある創業230年の名店「うお」で「ふなずし」という伝統的な料理を作り続ける左嵜謙祐さざきけんすけさんのもとを訪れました。このプロジェクトを手がける「graf」服部滋樹さんとそのおふたりを招いて行なわれたトークイベントの一部をご紹介します。

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服部滋樹(以下、服部) 滋賀には、東京23区と同じくらいの面積を誇る琵琶湖という湖があります。琵琶湖の周囲で暮らす人々の背景には必ず水や湖のある営みが見えるので、敢えて琵琶湖と言わなくても人々の暮らしから琵琶湖を伝えることをこのプロジェクトではやっています。滋賀には本当にさまざまなものがありますが、ここでは、歴史・ランドスケープ・ツーリズム・クラフト・地域産業・食の6つのカテゴリーに分け、それぞれの専門家たちがリサーチをしながら新しい滋賀の魅力を発見していきます。今回は、「restaurant eatrip」を主宰する野村さんと、創業230年の名店「うお」のざきさんとともに発酵食についてお話します。

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左嵜謙祐(以下、左嵜) 「うお」の当代として創業230年という歴史をあまり重く感じたくはないんです。初代の魚屋治右衛門さかなやじえもんが天明4年に初めたこの「うお」で、7代目の治右衛門じえもんはなにをしていこうかと、今の時代に合った“なにか”を日々考えています。
服部 今回、野村さんには滋賀の発酵食をリサーチするため、実際に現地へ足を運んでもらいました。滋賀は、何回目でしたか?
野村友里(以下、野村) 滋賀を訪れたのは3回目。震災後に初めて滋賀を訪れた時は、「七本鎗しちほんやり」のある湖北へ行きました。
服部 湖北は、琵琶湖の上に位置する滋賀最北部。その木之本や長浜というエリアはお米が有名で、滋賀の地酒「七本鎗」の古酒造があります。「七本鎗」は日本酒専門店でも置いてないことがあるくらい珍しいお酒なので、現地で必ず寄って貰いたい場所なんです。2回目は?
野村 お米の「みたて農園」へ田植えをしに行きました。
服部 「みたて農園」は、「七本鎗」の古酒蔵から少し南下した地域の若手のお米農家。あとは、「百菜劇場ひゃくさいげきじょう」かな?
野村 そう、すっごい楽しかった! 1回やってみたかったから、レンコン掘り。
服部 毎回、リサーチャーの方に「なにやりたい?」って聞くんですよ。そうしたら、レンコン掘りって......(笑)。ちなみに琵琶湖の淡水魚、ニゴロブナを獲る季節はいつ頃ですか?
左嵜 ちょうど3月〜5月までフナを獲りますね。僕たちは、3月のフナが1番良いと思っています。そこから、ウロコを取って、エラを取って、内蔵を取って、そこまでの処理を済ませて夏まで塩漬けにします。鮒ずしは、基本的に菌の添加をせず、家にいる菌が作ってくれる食べ物なんです。魚屋が鮒ずしを作っている理由はそこで、230年前の冷蔵庫がない時代に、捌ききれない生の魚を保存する方法として佃煮や「なれずし」を作っていました。

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服部 なれずしが鮒ずしとして定着していったんですか?
左嵜 フナを使ったなれずしを鮒ずしと言います。なれずしというのは、お酢を使わない寿司のこと。鮒ずしの材料は、お米と塩とニゴロブナのみ。
野村 なれずしに使う塩はどういう塩が良いんですか?
左嵜 そうですね、本来は日本海の塩です。琵琶湖の隣には「塩津」という塩の積み降ろし港の地名が残っているくらい、滋賀は塩の流通場所だったんです。
野村 200年も続いていると塩も変化して、味が変わるんじゃないのかと思います。
左嵜 そうですね。戦時中、塩の生産が激減し、戦後には規制がかかったので、今は普通の塩を使っていますけど、いつか海水塩や平釜塩に戻したいですね。
野村 お米は滋賀のもの?
左嵜 お米は滋賀の地のものを使っています。乾燥まで一貫した環境で作られるもの、そして、「この田んぼのお米が欲しい」という田んぼ指定で手に入るものにこだわっています。お米も原料が少ないものなので、やっぱり育った水で調理してあげたいんです。人間でも「場所が変わると水が合わない」と言うぐらいなので、お米が魚を熟成させるという時には、近くの同じ水域で育った稲というように、水の分類で括ってあげたいものです。

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※[後編]では、鮒ずしの加工過程から滋賀に伝わる発酵食文化を辿ります。

PROFILE


kensuke_sasaki.jpg左嵜謙祐(さざき・けんすけ)/創業230年を超える鮒ずしの老舗「魚治うおじ」(高島市マキノ町)の7代目当主。 「魚治」が手がける料亭「湖里庵こりあん」は、小説家の遠藤周作さんが命名した店としても広く知られ、伝統的な鮒ずしと革新的な「鮒ずし懐石」を堪能できる。また、2013年から「魚治」では、木桶仕込みの鮒ずしが50年ぶりにメニューとして復活。今なお滋賀で継承される伝統の味を守り続けている。
shigeki_hattori_graf.jpg服部滋樹(はっとり・しげき)/1970 年生まれ、大阪府出身。「graf」代表、クリエイティブディレクター、デ ザイナー。美大で彫刻を学んだ後、インテリアショップ、デザイン会社勤務を経て、1998年にインテリアショップで出会った友人たちと「graf」を立ち上げる。建築、インテリアなどに関わるデザインや、ブランディングディ レクションを手掛け、近年では地域再生をはじめとする社会活動にもその能力を発揮している。京都造形芸術大学芸術学部情報デザイン学科教授。
yuri_nomura_eatrip.jpg野村友里(のむら・ゆり)/フードディレクター、フードクリエイティブチーム「eatrip」主宰。長年おもてなし教室を開いていた母の影響で料理の道へ。母から譲り受けた、日本の四季を表す料理やしつらえ、客人をもてなす心をベースに食を通じて様々な角度から人や場所、ものを繋げ、広げている。主な活動にパーティーのケータリングフード演出や執筆、ラジオ番組。その活動を通して食の可能性を見出し、愉しさを伝える。2011年には、「シェ・パニース」のシェフたちとともに、生産者・料理人・消費者を繋ぐ参加型の食とアー トのイベント「OPEN harvest」を開催。その経験を経て「nomadic kitchen」を始動。2012年原宿にて「restaurant eatrip」をオープン。 初監督作品となる食のドキュメンタリー映画『eatrip』は2009年の公開後、DVDをリリース。著書に『eatlip gift』(マガジンハウス)がある。