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ディープな世田谷区を知る「セタガヤ・ローカルの歩き方」[前編]<br>草彅洋平×しまおまほ<br>展覧会『三軒茶屋 三角地帯 考現学』トークイベント

ポートレート写真:小原泰広 文:臼井のぞみ、草深早希

REPORT

ディープな世田谷区を知る「セタガヤ・ローカルの歩き方」[前編]
草彅洋平×しまおまほ
展覧会『三軒茶屋 三角地帯 考現学』トークイベント

世田谷区三軒茶屋駅からほど近い、飲食店がひしめくエリア・三角地帯の人々の営みを調査・記録した展覧会『三軒茶屋 三角地帯 考現学』が今年2月「生活工房」で開催。以前、ecocoloで取り上げた本展のトークイベントで行われた「セタガヤ・ローカルの歩き方」に登場したのは、世田谷区・梅ヶ丘出身の編集者、草彅洋平さんと、世田谷区・豪徳寺出身のエッセイスト、しまおまほさん。世田谷区で生まれ育ち、偶然にも同じ母校を持つふたりに、“セタガヤ・ローカル”だからこそ知っている穴場スポットを伺いました。イベントレポート[前編]では、三軒茶屋の街の変遷から草彅さんおすすめの世田谷区周辺のお店を一部ご紹介します。

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草彅洋平(以下、草彅) 僕は生まれてから39年間、ずっと世田谷区に住んでいます。世田谷は世間からは高級住宅地のイメージかもしれないけど、元々は田んぼしかなかった場所。そんな世田谷に、今は住宅がひしめいています。
しまおまほ(以下、しまお) 世田谷区って「ザ・東京」というイメージを持たれることもあるけど、私も田舎に住んでいるという意識があります。今でも近くに田んぼがあるし。東京というと渋谷とか新宿のイメージで、世田谷は別の場所という感じ。その中で、三軒茶屋は都会なイメージがありますね。
草彅 僕は2012年くらいに、三角地帯で「ONSEN」というバーをやっていました。僕は温泉も焼酎も大好きですが、温泉水を前割りで飲むっていうお店がなかったのでやってみようと思い立って。でも、結局忙しすぎて今は店を閉めてしまいました。「ONSEN」の跡地は「霧の中の風景」という友達の店に変わっています。

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しまお 三角地帯にお店を出すのは難しいですか?
草彅 非常に難しいと思います。なぜなら、みんなが借りたいと思う場所だから。三角地帯の賃料はそれほど高くないんです。だけど、一応東京都の再開発対象エリアになっているので、再開発が始まったら出て行かなくてはいけない。
しまお 再開発はいつあってもおかしくない状況ですか?
草彅 おかしくないですね。そもそも物件を借りるのも大変だけど、高い出資金を出してお店を営業しても、例えば1年先に再開発が始まったら、出資金も回収できなくなってしまいます。それでも三角地帯は賃料が安いので、お店を始めたいという若い子たちには人気がある。そうした若い世代が、今の三角地帯を盛り上げている雰囲気がありますね。
しまお お店同士の繫がりはありますか?
草彅 ありますね。三角地帯のお互いの店を飲み歩いたりするので、一軒で成立することはあまりないです。あと、値段がどこも安いですよね。「肉のハナマサ」近くにある「とり石」は、ローカル感があって安くて美味しくて大好きです。そうやってコミュニティーを拡げていって、三角地帯を渡り歩いてる人が結構いるんだろうなと思います。

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やきとり「とり石」の名物は、鶏肉が通常の2倍の大きさという「大串(1串¥200〜)」。ボリュームと味、コストパフォーマンスの3拍子揃ったお店は、開店とともに満席になるので早めに入店を。
住所:東京都世田谷区三軒茶屋2-15-14-104 ☎03-5430-1002 営業時間:17:00~24:00 ㊡水曜

しまお 三軒茶屋ってご飯を食べるというよりは、飲みに行く感じですよね。それは三角地帯のイメージなのかな。三角地帯では飲み屋以外にお店を出すところはないのでしょうか。
草彅 三軒茶屋にはもともと古本屋もたくさんあったのに、今はほとんど見かけないですね。三角地帯では難しいと思うけど、もともと古本屋がたくさんあった茶沢通りは、これからもそういうカルチャースポットになるんじゃないかな。
しまお 2020年の東京オリンピックでは世田谷区の馬事公苑が競技会場として使われますよね。そうなると、オリンピックまで三角地帯の銭湯とか飲み屋が残っていたら、日本に訪れる人たちを連れて行きたいですね。

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草彅 今回の展覧会『三軒茶屋 三角地帯 考現学』は面白かったですね。考現学を提唱した風俗研究家の今 和次郎(こん わじろう)さんは、「考現学は“いまを考え、未来をつくる”学問」だと言っています。考現学的に見るわけではないけれど、東京について色々散策するのが好きで、普段から街歩きをしていています。そこで、普段飲み歩いているおすすめのお店をいくつか紹介します。まずは、三軒茶屋のすずらん通りにある「割烹 味とめ」。実は、僕の好きな作家の北森 鴻(きたもり こう)がバイトをしていた店で、彼の推理小説シリーズ「香菜里屋(かなりや)」の舞台が三角地帯なんです。

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千葉県産の新鮮なイワシ料理が食べられる居酒屋「割烹 味とめ」。ほかにも、自家製の「キャラブキ」や刺身盛り合わせなど、旬のメニューが人気。女将さんの温かいもてなしに元気をもらいます。
住所:東京都世田谷区太子堂4-23-7 ☎03-3422-5845 営業時間:平日9:30〜24:00、土日祝14:30〜24:00 ㊡不定休

草彅 あと、「采(さい)」という日本酒専門店もおすすめ。500円くらいで美味い日本酒が飲める、すごくいい店です。お通しがお粥なんですよね。
しまお それは、お腹にもお財布にも優しいお店ですね。
草彅 飲み屋なんだけど定食が食べられる「食堂おさか」や「東京ごはん ニエバナ」もめちゃくちゃお世話になっています。こんなに通うくらいなら自分で店をやった方がいいんじゃないかって、それで店を出すに至ったところもあるくらい。それから、最近ひたすらおすすめしているのは、世田谷代田駅の梅丘通り沿いにある「ボンナボンナ」というカレー屋。店主の影山さんはスパイスに対する情熱が半端じゃなくて、注文をする前にしっかりスパイスの話をしてくれるので、料理が出てくるまでに時間がかかります。影山さんの作るカレーは、正確には“カレー”ではなく“スパイスごはん”なんです。話もめちゃくちゃおもしろいから、是非行ってみてほしいですね。

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体が喜ぶスパイスをたっぷり摂れるスパイスサロン「ボンナボンナ」。おすすめは、40〜50種類のスパイスを店主自らが季節に合わせて調合する「スパイスごはん チキンベジ」(¥1,480|税込)。
住所:東京都世田谷区代田1-35-13 ☎03-6315-8903 営業時間:火〜土12:00~20:00(最終入店)、日12:00~16:00(最終入店) ㊡月曜

※[後編]では、しまおさんが幼少期から過ごした縁の地や愛着のあるお店をご紹介します。

PROFILE

草彅洋平(くさなぎ・ようへい)/株式会社東京ピストル代表取締役、編集者。1976年、東京都生まれ。インテリア会社である株式会社イデーにてブランディング等を幅広く担当。退社後に2006年、デザイナーの加藤賢策ともに株式会社東京ピストルを設立。ブランディングからプロモーション、紙からウェブ媒体まで幅広く手がけるクリエイティブカンパニーの代表として、幅広く企画立案等を手がける次世代型編集者として活躍中。 tokyopistol.com

しまおまほ/1978年、東京生まれ。多摩美術大学二部芸術学科卒業。1997年に漫画『女子高生ゴリコ』(扶桑社)でデビュー。さまざまな雑誌にイラストやコラム、写真などを寄稿し活動の場を広げる。現在、毎週土曜日に放送中のTBSラジオ番組『ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル』にレギュラー出演中。両親は写真家の島尾伸三と潮田登久子、祖父母は作家の島尾敏雄・島尾ミホなど芸術家一家の一員としても知られる。 mahomahowar.com