ポートレート写真:小原泰広 文:臼井のぞみ、草深早希
REPORT
ディープな世田谷区を知る「セタガヤ・ローカルの歩き方」[後編]草彅洋平×しまおまほ
展覧会『三軒茶屋 三角地帯 考現学』トークイベント
三角地帯での人々の営みを調査・記録した展覧会『三軒茶屋 三角地帯 考現学』が三軒茶屋にある「生活工房」で開催。本展の最終日に行われたトークイベント「セタガヤ・ローカルの歩き方」では、世田谷区・梅ヶ丘出身の編集者、草彅洋平さんと、世田谷区・豪徳寺出身のエッセイスト、しまおまほさんが登場しました。イベントレポート[後編]でご紹介するのは、しまおさんが幼少期から過ごしたゆかりの地や愛着あるおすすめのお店。ほかにも、世田谷区に集結するスナックやカレー屋など、“セタガヤ・ローカル”だからこそ知っているディープなスポットが次々と飛び出しました。
※[前編]は、こちらから
しまおまほ(以下、しまお) 私は、お店というより生まれ育った世田谷区の思い出の地をご紹介します。まずは、「世田谷八幡宮」。子どもの頃、毎年敬老の日にお祭りがあって、お天気は必ずと言っていいほど雨。ぬかるんだ境内をピチャピチャと歩いたのを思い出します。
草彅洋平(以下、草彅) ここは土俵がいいですよね。相撲部かどこかの学生が相撲をとっていたりして。
しまお 次の思い出の場所は、小田急線梅ヶ丘の「山崎湯」。中に入ったことはないけど、母校の山崎中学校の近くにある銭湯です。中学生時代、冬になると寒い下校途中にそこの煙突で手を温めるのが私たちの日課でした。今回調べた三角地帯の「千代の湯」のお湯がすごく熱かったんだけど、実は世田谷で一番熱いお湯は「山崎湯」だという話を聞きました。
草彅 へえー、知らなかった。ここは住宅地のど真ん中にあって見つけにくいところですよね。世田谷区には、昔ながらの銭湯が意外とたくさんありますよね。
薪で沸かす「山崎湯」は、やわらかい水質が特徴。通常の浴場のほかに、ジェットバスやミクロバイブラバス、遠赤外線浴を完備。遠赤外線浴は、体の深層部まで浸透し、新陳代謝を促します。
住所:東京都世田谷区梅丘2-14-15 ☎03-3427-1856 営業時間:15:00~23:50 ㊡不定休
しまお 豪徳寺にも「鶴の湯」という銭湯があります。私が子どもの頃、父親に「『鶴の湯』は鶴で出汁をとってるんだよ」って教えられていて、それをずっと信じていました。ほかにも、かつては「亀乃湯」という銭湯もあって、そこは「亀の出汁で......」って。
草彅 写真家の島尾伸三さんが仰っていたんですか。すごいお父さんだな。
しまお 世田谷線上町にある世田谷通り沿いの「オークラランド」も思い出の場所。中学生の頃、初めてカラオケボックスに行ったところです。ここで初めて「アンダルシアに憧れて」というブルーハーツの真島昌利さんのソロ曲を歌ったんです。当時は、マイクを持って歌うことに、すごい緊張していました。
草彅 懐かしいですね。僕らはボーリングもここが初めてですよね。
しまお おすすめのお店は、山下駅と豪徳寺駅の間にある、昼2時から夜2時までやっている「ピコンバー」というカフェバー。マスターがちょっと変わり者なんだけど、食べ物も飲み物も美味しくて、ボリュームがあって良いんですよね。
赤いエントランスが目印の「ピコンバー」。フードは、自家製コンビーフやパスタ、キッシュなど、手の込んだメニューが充実。ティータイムにも、バーにも使える、落ち着いた店内が魅力。
住所:東京都世田谷区豪徳寺1-45-2 ☎03-3420-9977 営業時間:月〜土14:00〜26:00、日12:00〜21:00 ㊡火曜
しまお 小田原線経堂にある「凧(はた)」っていう小料理のお店もおすすめ。ここもすごく美味しいんですけど、なによりおもしろいのが、ここの奥にキャバレーがあって、「凧」に行く時のトイレはキャバレーのを使わなきゃいけない。一回そのお店に入店するというのが、すごく変でおもしろいですね。「凧」に行った際は、トイレにもぜひ行ってみてください。あと、「冨永オリジナルデリカテッセン」。私が小さい頃は普通のお肉屋さんだったけど、最近は自家製ハムとかウインナーとかがあって、それがすごく美味しいんです。ここは、草彅さんが小説『OPERA』でコラボしたバンド「OKAMOTO'S」のショウさんが昔バイトをされていたということで、若い女性もよく来ています。
草彅 そうなんだ! ショウ君とはよく豪徳寺で飲み歩いてますよ。
200種類以上もの自家製ハムとソーセージを取り揃える「冨永オリジナルデリカテッセン」。白ソーセージの「バイスヴルスト」が定番人気。食卓で喜ばれるだけでなく、贈り物としても重宝します。
住所:東京都世田谷区豪徳寺1-50-18 ☎03-3420-0973 営業時間:9:00〜19:00 ㊡日曜・月曜
草彅 経堂は良い店がありますよね。ちなみに、三軒茶屋のスナックもおもしろいですよ。「ピエロ」は行きつけのひとつです。
しまお 私たち世代で、スナックに通うというのがブームになってきましたよね。私は、用賀にあるスナック「ブス」というところが気になっています。
草彅 ありますね! 僕もそこ気になっていたんです。あと、小田原線経堂から京王線千歳烏山の方にかけてカレー屋さんが集中していますよね。例えば、経堂には「世田谷クミン」という優しい味のカレー屋さんや、サバカレーが美味しい「ガラムマサラ」があります。あと、祖師ケ谷大蔵には「馬来西亜マレー」というマレーシア専門のカレーを出すお店もありますし。
しまお 弦巻通り沿いにできて最近話題になっている「Indian canteen AMI」っていう、ちょっとおしゃれなカレー屋さんもありますね。
草彅 三軒茶屋にも「シバカリーワラ」という有名なカレー屋が。
しまお 世田谷線上町にある世田谷通り沿いのカレー屋「スパイスマジック」とかね。
草彅 あそこもめちゃくちゃ美味しいですよね。
しまお ちなみに、世田谷区役所近くの「大吉」っていう中華屋さんも美味しいですよね。
草彅 「大吉」最高。僕、あそこの中華丼が日本で一番好きです。
しまお 私は、黒豆が乗っている杏仁豆腐が好きです。ちなみに、世田谷区役所には「レストラン けやき」というお店がありますね。
草彅 「けやき」は噴水があって、風情のあるすごく良い場所ですよね。夏にはヤブ蚊が多いですけどね。だけど、区役所もじきに、改築されそうですね。
しまお 私、世田谷区役所の建物は、重厚でデザインも良くてすごく好きなんです。
草彅 僕もです。開発や耐震工事が進んでも、残すべきものはこれからも街に残していって欲しいですね。
PROFILE
草彅洋平(くさなぎ・ようへい)/株式会社東京ピストル代表取締役、編集者。1976年、東京都生まれ。インテリア会社である株式会社イデーにてブランディング等を幅広く担当。退社後に2006年、デザイナーの加藤賢策ともに株式会社東京ピストルを設立。ブランディングからプロモーション、紙からウェブ媒体まで幅広く手がけるクリエイティブカンパニーの代表として、幅広く企画立案等を手がける次世代型編集者として活躍中。 tokyopistol.com
しまおまほ/1978年、東京生まれ。多摩美術大学二部芸術学科卒業。1997年に漫画『女子高生ゴリコ』(扶桑社)でデビュー。さまざまな雑誌にイラストやコラム、写真などを寄稿し活動の場を広げる。現在、毎週土曜日に放送中のTBSラジオ番組『ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル』にレギュラー出演中。両親は写真家の島尾伸三と潮田登久子、祖父母は作家の島尾敏雄・島尾ミホなど芸術家一家の一員としても知られる。 mahomahowar.com