写真左から、Joël Merah(ジョエル・メラ)、Sylvain Chauveau(シルヴァン・ショヴォ)、
Stéphane Garin(ステファン・ガリン)、Jùlia Gàllego(ジュリア・ギャレロ)
写真:小原泰広 翻訳:フジタ花梨 協力:中野たいじ 文:草深早希
INTERVIEW
フランス現代音楽のアンサンブル「0(ゼロ)」が小津安二郎監督作品をフィーチャーした最新アルバム『Umarete Wa Mita Keredo』
繊細に奏でられるアコースティックギターやグロッケン、フルートなど、さまざまな楽器の柔らかい音色に影響し合いながら生まれる新たな音楽の領域。「0(ゼロ)」は、フランスの現代音楽シーンを代表する音楽家、Sylvain Chauveau(シルヴァン・ショヴォ)を中心に、2004年にフランスで結成されたアンサンブルです。日本映画の巨匠、小津安二郎監督のサイレントフィルム『大人の見る繪本 生れてはみたけれど』をフィーチャーした彼らの最新アルバム『Umarete Wa Mita Keredo』のリリースを記念し、今秋10月に行なわれた「0 Japan Tour 2015」では、小津監督作品のスクリーニングとともに見事なサウンド・パフォーマンスを披露。それぞれが思うままに演奏しながらもごく自然にアンサンブルが生まれるのは、彼らが慣れ親しんだ楽器そのものへ深い信頼があるからこそではないでしょうか。最新アルバムやゼロの音楽について、シルヴァンを中心にお話を聞きました。
ーー小津監督のサイレントフィルムをスクリーニングしながらの演奏を見てすごく素敵なパフォーマンスだと思いました。なぜ小津監督の作品を選んだのか、その経緯を教えてください。
Sylvain Chauveau(以下、シルヴァン) 小津安二郎監督は、フランスの映画好きの中でもとても有名な人物です。この最新アルバムを制作するまで、彼の映画を観たことはありませんでしたが、彼の名前はよく知っていました。フランスとスペインの国境近くにあるバイヨンヌという街にある映画館「The Cinema L'Ataalnte」は、サイレントフィルムに音楽をつける上映会にとても興味を持っていました。ゼロのメンバーのひとりでギタリストのジョエルがバイヨンヌの出身だったこともあり、この話を聞いたんです。もちろん、ジョエルが小津監督の映画『生まれてみたけれど』を好きだったこともあってこの映画をセレクトしましたが、サイレントフィルムに音楽を付ける実験的な試みに、ほかのメンバーも興味があったことからこの制作がスタートしました。
ーーこの映画は、父親の転勤に伴い転校した子どもの視点からサラリーマン社会の哀情を描いた喜劇。音楽制作の中で、ゼロと小津監督の作品がシンクロする部分はありましたか?
シルヴァン 1930年代に制作された小津監督の映画『生まれてはみたけど』は、サイレントフィルムなので、楽器を自分たちのイメージでセレクトできたことをはじめ、割と自由に制作をすることができたと思います。この作品を観ていて自由な発想を多く感じたので、そういう意味では、ゼロとの共通点を多く見つけられました。今回、「0 Japan Tour 2015」では、すべての都市で最新アルバム『Umarete Wa Mita Keredo』の演奏をしてきました。映画のスクリーニングとともにこのアルバムの演奏をする時は、映画を観ながらそのシーンに合わせてアコースティックギターを弾き始めます。
小津監督の世界観と近づくための意識
シルヴァン このアルバムでは、17〜18世紀の日本の伝統的な音楽を取り入れて演奏をしたいと思っていたので、琴や尺八の音をイメージしてフルートを使っています。もちろん、これは日本の映画ですので、日本の要素を取り入れるということにすごく気を使いました。
ジョエル 映画を観ているとアメリカの要素が多く含まれていることに気づきました。だから、決してアメリカ文化にはならないよう画面に見えている文字は翻訳する必要はないし、そこに見えていない日本の「精神」や「エスプリ」というものを出そうと思っていたので、この映画との矛盾が生じないようにしたいという意識はありました。もちろん、アメリカに影響を受けたというところもありますが、できるだけ日本の精神を翻訳できるよう勤めました。
ーーその時々で変化をしながら生まれるゼロの音楽は、本来、電子楽器が使われるようなパートをあえてアコースティック楽器を使って表現しています。アコースティック編成で演奏をすることへのこだわりはなんでしょうか。
シルヴァン 私たちもゼロの音楽の中では、アコースティックで演奏することが好きなんです。それは、電子楽器での演奏よりも、アコースティックで演奏をすることの方がよりフィジカルに感覚的なものを埋め込めるからです。メンバー全員が電子音楽をとてもよく聴いているんですけど、電子音楽と同じようなことをアコースティックでやりたいと思っていたことが今のゼロの形になっています。このようにアコースティックを気に入っていたっていうのも理由のひとつですが、私たちが実際にそれをできたのは、それぞれのメンバーが楽器というものにたくさんの時間を費やしてきたからです。メンバーのステファンは、実際にテクノをやっているのでメンバーの誰よりも電子音楽を聴いていますが、良く知っている音楽だからこそアコースティックでやる意義があると思っています。
ーー今回のツアーは、京都、福岡、岡山、金沢、富山、東京の全国7会場で開催。変化を伴うゼロの音楽同様に、自身の演奏や気持ちは、どのように変化していきましたか?
シルヴァン 日本各地を回って絶えず気持ちが変わってきました。京都、福岡、岡山......その土地ごとの文化が自然と身に入ってくるので、演奏をしながら精神的にも洗練されてきたと思います。アコースティックでの演奏は、その時の気持ちやメンバーのいつもと違う音に影響し合って演奏が生まれるので場所には強く影響を受けたと思います。私たちは、ライヴハウスをあえて避けているつもりもありませんが、例えば書店だと静かな印象が自分たちの音楽とも合っていますし、映画館や書店、ギャラリー、学校など、いろんな場所で演奏をすることを常に意識しています。そして、即興演奏を意識しているので、演奏をするたびいつも作曲だと思っているんですけど、違う場所で演奏をすることで、より自分たちがやりたい方向に近づける、即興を重ねる、そんなことを繰り返してゼロの音楽が洗練されることを大切にしています。
ステファン 特に日本は音楽を聴く姿勢があるから書店での演奏ができると思いますが、フランスでは書店で演奏することはほとんどできません......。誰も聴いてくれないんです(笑)。日本だからこそ、さまざまな場所でライヴを行なうことが可能だったと思います。
PROFILE
0(ゼロ)/フランスの現代音楽シーンを代表する音楽家、Sylvain Chauveau(シルヴァン・ショヴォ)を中心に、次世代を担う優良な音楽に贈られる「武満徹作曲賞」を受賞した若手現代作曲家、Joël Merah(ジョエル・メラ)、池田亮司「superposition」でもパフォーマーを務めるパーカッション奏者Stéphane Garin(ステファン・ガリン)という才能を従え、これまでにヨーロッパ各地での様々な音楽祭やホールで公演。「0 Japan Tour 2015」では、最新アルバムにも参加したマーラー室内管弦楽団のフルート奏者Jùlia Gàllego(ジュリア・ギャレロ)を新たに加えた4人編成でサウンド・パフォーマンスを催行。 flau.jp