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THE TOKYO ART BOOK FAIR<br>ニューヨーク近代美術館 図書館司書 デイヴィッド・シニア<br>アーティストブックの歴史を辿る[後編]

写真:山本あゆみ 文:草深早希

この秋、9月19日(土)・20日(日)・21日(月)のシルバーウィークに
京都造形芸術大学・東北芸術工科大学 外苑キャンパスで開催される「THE TOKYO ART BOOK FAIR 2015」。
開催に先駆け、ニューヨーク近代美術館(MoMA)で図書館司書を務めるデイヴィッド・シニアを
招いた昨年のトークイベント「美術館とライブラリ」を一部抜粋してご紹介します。

REPORT

THE TOKYO ART BOOK FAIR
ニューヨーク近代美術館 図書館司書 デイヴィッド・シニア
アーティストブックの歴史を辿る[後編]

※[前編][中編]は、こちらから

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NY近代美術館の図書館司書を務め、美術館で行われる展覧会の企画にも携わるデイヴィット・シニアは、終始リラックスした雰囲気でアートブックの歴史について話を続けます。

女性のために機能するアートブック

1970年代後半には、アーティストブックという考え方が随分根付いてきていて、世界中でアーティストブックを売るお店ができてきました。ニューヨークにあるプリンテッド・マター(写真下)という出版社の設立者兼キュレーターで、ルーシー・リッパードという女性がいます。私はアーティストブックとは、情報を伝える手段として重要なものだと考えています。特に、女性のアーティストにとって自分たちの作品を表現するためのひとつの重要な方法として機能しています。アーティストブックを通して、美術館やギャラリーのシステムに依存することなくアートを表現できるようになるのです。

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▲ 1980年代前半に使われたNYの出版社プリンテッド・マターの広告。今年移転オープンしたばかりの同名のアート専門書店では、有名無名問わず沢山の良質なZINEやアートブックを取り扱っている。

インビテーションという活動のアーカイブ

パフォーマンスをアーカイブすることと印刷物には、強い関係性があります。たとえば、展覧会のインビテーションばかりを集めた私の本『Please Come to the Show』(写真下)。これは過去に、どのような展覧会が開催されていたかというアーカイブです。私たちの展覧会に対する記憶が、インビテーションによってどのように構築されているのかに興味があったので、この本をつくりました。ある意味、自分が探偵になってさまざまな情報の断片から当時の記憶を構築していく作業に興味がありました。インビテーションのアプローチとしては、アーティストブックに対する考え方と変わりません。この本にでてくるインビテーションに関しては、アーティストが絵を描いているなど、アーティストが直接かかわっているものを中心に集めています。

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▲ 過去のインビテーションを集めた同名の展覧会のためにシニア氏が編集を手がけたカタログ。David Senior著書『Please Come to the Show』(pleasecometotheshow.tumblr.com

このなかには、インビテーション自体が作品の一部であったり、作品自体を否定してつくられているものもあります。ロバート・バリーによる有名なインビテーションには「この展示期間中、ギャラリーは閉まっています」とだけ書かれています。つまり、その展覧会はインビテーションしか存在しなかったんです。これはユーモアのあるアーティストがつくるおもしろいインビテーションの使い方だと思います。

これからの出版物の可能性

印刷物に比べ、インターネットには安く流通できるというメリットがあります。しかし、安く流通できるという考え方だけで、ただ単にPDFを作ってしまうことも少なくありません。そのなかで自分が躊躇してしまうのは、果たしてPDFというものが10年後、50年後、100年後を生き延びているのかということ。本だったら本棚へ置いておけばそのまま残るだろうという感覚がわきますが、過去5年間を振り返るだけでもデジタルの中での存在が如何にもろいのかということも、私たちは日々目の当たりにしていると思います。双方を考えても、果たしてどちらが良いのか、それはいまだに誰にもわからないことではないでしょうか。

昨年、アートブックの歴史について貴重なお話を披露してくれたデイヴィッド・シニア。この秋、9月19日(土)から開催される「THE TOKYO ART BOOK FAIR 2015」オープニングトークでは、編集者の林 央子、ZINEのパイオニアであるスイスの出版社「Nieves」のベンジャミン・ソマーハルダーをゲストに招き、TOKYO ART BOOK FAIRマネージャーのミヤギフトシを交え、ZINEの機能や可能性をはじめ、さまざまな出版表現のありかたを探ります。ほかにも、フェアに参加する出展者やゲストによる公開プレゼンテーションや、日本で活躍するデザイナーを交えたデザインと出版についてのシンポジウム、アーティストによるライブパフォーマンスなど、アートブックにまつわる沢山のイベントが行われる3日間。イベント情報は、随時公式HPにて更新されるのでチェックしてみてください!

INFORMATION

THE TOKYO ART BOOK FAIR 2015

会期: 9月19日(土)~ 9月21日(月・祝)
会場: 京都造形芸術大学・東北芸術工科大学 外苑キャンパス
(東京都港区北青山1-7-15)
入場料: 無料
WEB: tokyoartbookfair.com

PROFILE


20150910_ba_profile.jpgデイヴィッド・シニア(David Senior)/ニューヨーク近代美術館アートライブラリの司書。自費出版によるアートブックの収集を含むコレクション管理に携わる。図書館主催による展覧会の企画を多く手がけるほか、NY、LAアートブックフェアのイベントなども担当。また、毎年NYアートブックフェアにあわせ数々のアーティストと作品集を制作し出版するほか、多くのアート雑誌で執筆をしている。