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「BEAR POND ESPRESSO」が見たアメリカ、サードウェーブ  ー映画『A FILM ABOUT COFFEE』の背景[前編]

写真:徳永 彩(KiKi inc. ) 文:草深早希

REPORT

「BEAR POND ESPRESSO」が見たアメリカ、サードウェーブ  ー映画『A FILM ABOUT COFFEE』の背景[前編]

今日の世界を席巻するコーヒー・ムーブメントは、1800年代に始まったファーストウェーブからセカンドウェーブへと進化を遂げ、さらに、もう一歩踏み込んだサードウェーブと呼ばれる時代を迎えています。東京・下北沢にショップを構える「BEAR POND ESPRESSO(ベアポンドエスプレッソ)」は、そんなコーヒー・シーンを牽引するコーヒースタンドのひとつ。 現在公開されている“豆から一杯まで”のコーヒーのストーリーを美しい映像で描いたドキュメンタリーフィルム『A FILM ABOUT COFFEE』に登場するロースターたちとともに、バリスタとしてアメリカでコーヒーに携わってきた「BEAR POND ESPRESSO」オーナーの田中勝幸さんに、サードウェーブへ発展するまでのコーヒー文化の背景を伺いました。

コーヒー・ムーブメントの潮流

ファーストウェーブ、セカンドウェーブ、サードウェーブというのは、基本的にアメリカのコーヒーロースターから発信された言葉です。まず、アメリカのロースターでも低価格で誰でも気軽にコーヒーを楽しめるという第1次のムーブメントがファーストウェーブ。そこから、もう少し手作りにしようと国別の豆を使っていく第2次のムーブメントがセカンドウェーブ。そして、セカンドウェーブからもう一歩踏み込み、コーヒー豆の品種自体を見直そうと各国の人々がコーヒー農家へ直接足を運ぶようになった今日のムーブメントがサードウェーブと呼ばれています。「アメリカで起こるウェーブと日本で起こるウェーブの違いを理解できる方はまずいないと思うんです。なぜなら、この2つの大陸で同じように生きない限りわからないことですから」と田中さん。それぞれのウェーブの中には、食文化や国民性などの地域性が強く反映されているからだと話します。

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▲ アメリカのコーヒー缶を抱える「BEAR POND ESPRESSO」オーナーバリスタの田中さん。

例えば、アメリカのファーストウェーブは、豆を挽いたコーヒーパウダー。よくアメリカ映画で観かけるようなコーヒー缶の中に入った真空パックのコーヒー粉をフィルターに通し、デカンタのような容器に落としていくようなものでした。そして、日本のファーストウェーブは、インスタントコーヒーと独自に進化した缶コーヒー。そんなファーストウェーブ当時、田中さんはディエゴ・マラドーナを起用した「アサヒビール」の缶コーヒー〈NOVA〉の広告クリエイティブディレクターとして活躍。その後、1989年に留学のため渡米したアリゾナで田中さんはセカンドウェーブを経験することになります。

ファーストウェーブからセカンドウェーブへの時代の変化

セカンドウェーブは1960年代初頭に始まり、1970年頃カリフォルニアのノーザン・パシフィック鉄道沿線を中心に「スターバックスコーヒー」のようなエスプレッソ系のドリンクを提供するショップのチェーン展開がよりポピュラーになった時代。しかし、エスプレッソを楽しむという価値観がまだ市民権を得ていなかった1989年頃のカリフォルニアはLAからアリゾナにかけては、産地別のコーヒー豆をオート・ドリップで淹れた質の良いコーヒーを提供するショップが多く展開されていました。そもそも、コーヒーは紀元前6世紀に生まれてから焙煎しドリップして飲まれるものでしたが、1800年後期にエスプレッソマシーンが開発されたことにより、カプチーノやカフェラテなどのエスプレッソドリンクとしての飲み方が浸透。1995年、アリゾナ州立大学卒業と同時に広告代理店勤務が決まった田中さんはアリゾナからNYへ渡ります。当時NYでもポピュラーなカフェではエスプレッソでなくオート・ドリップした“コーヒー”が主流。1993年頃、セカンドウェーブとともに状況は一変し、「スターバックスコーヒー」を飲むことがひとつのステータスになりました。

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▲ NY時代から詳細にコーヒーの記録を続けてきたダイアリー。田中さんは「これは、NYが最も元気な時代。2005年頃のケイティ、2006年頃に出会ったまだ若き『ブルーボトル・コーヒー』の創設者ジェームズ・フリーマン......」と、次々に言葉があふれます。

ちょうどその頃、ドキュメンタリー『A FILM ABOUT COFFEE』にも登場する「ブルーボトル・コーヒー」の創設者ジェームズ・フリーマンは、オーケストラ楽団のクラリネット奏者。ウィーンに行った際、ヨーロッパで初めて誕生したコーヒーショップ「ブルーボトル」に感銘を受けたことが現在の「ブルーボトル・コーヒー」の名前に由来します。1998年頃、もっとパッションのある美味しいコーヒーを作りたいという思いから、自らコーヒー豆を焙煎しファーマーズマーケットに出店。同時に、NYで「Counter Culture Coffee(カウンター・カルチャー・コーヒー)」バリスタのケイティ・ガリーロたちとともにコーヒーをテイスティングするパブリックカッピングの日々を送っていた田中さんは、“繊細なパレットを持つ日本人”として当時ニューヨークタイムズに取り上げられ、「Gimme! Coffee(ギミコーヒー)」に誘いを受けたことにより本格的にコーヒーの道へ進みます。

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▲ NY時代の記録写真。左上:初期のパブリックカッピング用のノート。右上:パブリックカッピングを行なっている時の様子。左下:コーヒーショップ「Everyman」バリスタのケイティ&マイスター。右下:「Gimme! Coffee」バリスタのアレン・イエント。

2001年、マンハッタンのイーストヴィレッジにあるコーヒーショップ「NINTH STREET ESPRESSO」によって、香りの良い高品質の豆にこだわった「スペシャルティコーヒー」が初めて展開されます。それも、コーヒー豆を“新鮮な季節のフルーツ”として改新的に捉え、完璧なコーヒーへのアプローチをする「カウンター・カルチャー・コーヒー」のコーヒー豆を起用したとびきりの1杯。それが、今日に続くムーブメント、サードウェーブの始まりです。[後編]では、田中さんが肌身で体験してきたNYサードウェーブ・シーンをご紹介します。

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▲ 「Gimme! Coffee」バリスタのマーク・ザハリスを撮影した、NY時代の思い出の1枚。

※[後編]は、こちらから

INFORMATION


bearpondespresso_10.jpg ドキュメンタリーフィルム『A FILM ABOUT COFFEE』
監督: ブランドン・ローバー
提供: シンカ、ヌマブックス、シャ・ラ・ラ・カンパニー
配給: メジロフィルムズ
WEB: afilmaboutcoffee.jp

※1月30日(土)より渋谷UP LINKにて追加上映ほか、全国順次公開中


SHOP DATA

BEAR POND ESPRESSO

住所: 東京都世田谷区北沢2-36-12
時間: 11:00〜17:30
定休日: 火曜
TEL: 03-5454-2486
WEB: bear-pond.com