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いい顔が集まる、尾道発チョコレート工場<br>「USHIO CHOCOLATL」の話[前編]

写真:須藤敬一 文:中野由佳

REPORT

いい顔が集まる、尾道発チョコレート工場
「USHIO CHOCOLATL」の話[前編]

今、みなさんが食べたいと思うチョコレートはどんな味でしょうか? 子供の頃から馴染みのある定番のおやつの味、それが一般的な感覚なのかもしれません。しかし、コーヒーにサードウェーブが起こったように、チョコレートにもアメリカから新しいスタイルの波が到来。カカオ豆の焙煎から製造まで、全行程を自らの工場で行う“Bean to Bar”スタイルのチョコレート専門店が日本でも急増中です。カカオ豆の個性を生かして1枚1枚丁寧に作られたピュアで香り豊かなチョコレート。その奥深い味を知ると、これまで体験したチョコレートという味の感覚は大きく揺らぐはずです。

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尾道の山奥に佇むチョコレート工場

志賀直哉や林芙美子などの文人に愛され、数々の名画の舞台にも選ばれた街、広島県尾道市。尾道市と四国・愛媛県今治市を結び「しまなみ街道」の愛称で知られる西瀬戸自動車道は、日本で初の海峡を横断できる国内屈指のサイクリングロードとして、多くのサイクリストが訪れる注目のエリアです。そんな風光明媚な瀬戸内の島々のひとつ、尾道の対岸の島・向島(むかいしま)に2014年にオープンしたチョコレート工場「USHIO CHOCOLATL(ウシオチョコラトル)」。カカオ豆から無添加で製造されるチョコレートの味の噂は瞬く間に広まり、その味のファンは全国に広がりを見せています。今回は「USHIO CHOCOLATL」の魅力を探るべく、工場見学に行って来ました。

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▲ 尾道市が所有する公共施設のキッチンを改装した「USHIO CHOCOLATL」。入り口はこの看板が目印。

尾道から尾道大橋を渡り、向島ICから車で10分ほど南下した場所にある立花自然活用村管理センター内に「USHIO CHOCOLATL」の工場兼ショップはあります。道中は山道で隣接する建物がなく、辿り着くまでに少しだけ不安は募るものの、「USHIO CHOCOLATL」の看板と同時に視界に飛び込んでくる瀬戸内海の絶景を目の前にしたら、歓喜の声をあげてしまうに違いありません。

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▲ 焙煎したカカオ豆。工場長の中村さん曰く、「作っている人の“顔”が豆に現れる」そう。

店内に足を踏み入れると焙煎したカカオ豆の香ばしい香りが出迎えてくれて、すぐさま幸せな気持ちに。焙煎したてのカカオ豆の粒をひとついただきましたが、まさしくこれがチョコレートの原料。口の中で香り、酸味、旨味がふわりと広がります。「USHIO CHOCOLATL」のチョコレートはカカオ豆と砂糖のみで作られるので、カカオ豆の産地によってその味わいは変わってきます。通常、カカオ豆は農園で収穫された後、農園で発酵され、それを乾燥させたものが麻袋に入って送られてきますが、豆の特徴やどんな味を引き出したいかで焙煎の加減が変わってくるのはコーヒーと同様。コーヒーで言うところの豆を挽く粒子の大きさや焙煎の仕方によって、チョコレートの風味や舌触りも変わります。

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▲ 左:内装はすべて手作り。チョコレートのほかにも、コーヒーやホットチョコレート、大三島のみかんを使ったストレートジュースも販売。 右:譲り受けた唐箕や桶を選定に活用。

「USHIO CHOCOLATL」では、ローストしたカカオ豆はすべて手作業によって選定し、皮をむきます。そして、米の脱穀に使用する唐箕(とうみ)で皮と実を分別。昔ながらの農具をチョコレートづくりに活用するのも「USHIO CHOCOLATL」ならではのスタイル。店内には工場の展開図が描かれた看板が設置されているので、それを眺めながら中の様子を見学するのもおすすめです。

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▲ テンパリングしたチョコレートをオリジナルの六角形の型に流し込む作業や、手作業で丁寧に梱包する様子。カカオの産地によってパッケージデザインが異なります。

カカオ豆を殻むきした後、コンチングマシーンで精練、そしてテンパリングマシーンへ。液状になったチョコレートを流し込む六角形の型にも「USHIO CHOCOLATL」のオリジナリティを垣間みることができます。「USHIO CHOCOLATL」をスタートさせたのは、福岡出身の中村真也さん、兵庫県出身の宮本篤さん、広島出身の栗本雄司さんの3人。チョコレートというキャッチーなものに自分たちの好きなものを詰め込もうというコンセプトのもと、「USHIO CHOCOLATL」が誕生しました。「チョコレート=板チョコというイメージがあったので、まずは見たことのないチョコレートを作りたいと思いました。美味しくできあがっても、まずは手に取ってもらわないと意味がないので。型は3人で始めたので三角形という案もありましたが、それなら六つの三角形で六角形にしようというアイディアに。六角形と言えば、自然界で一番広がりやすく、強いとされている“ハニカム構造”。ひとつ繫がればどんどん広がっていくイメージで、このチョコレートも色々な人に手にとってもらいたいという願いが込められています。イラストは自分たちがいいなと思った作家に『俺たちとメークマネーしようぜ!』という感じで依頼しています」と、冗談混じりでありながらチョコレートについて熱く語ってくれた宮本さん。壁にはお客さんから届いた心のこもった手紙や「猫背を正そう!」と書かれた紙が張ってあるなど、どこまでも愛嬌に満ちた工場です。ますます「USHIO CHOCOLATL」について知りたくなります。

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[後編]では、「USHIO CHOCOLATL」のチョコレートができあがるまでの、これまたユニークな道のりを工場長の中村さんにお伺いします。

※[後編]はこちらから

SHOP DATA

USHIO CHOCOLATL

住所: 広島県尾道市向島町立花2200 自然活用村2F
時間: 9:00〜17:00
定休日: 火曜・水曜
TEL: 0848-36-6408
WEB: ushio-choco.com