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山形・伝統野菜を受け継ぐ農家「森の家」<br>秋の収穫祭[前編]

写真:志鎌康平(アカオニデザイン) 文:草深早希

REPORT

山形・伝統野菜を受け継ぐ農家「森の家」
秋の収穫祭[前編]

初秋を迎えた、山形県真室川町。秋田県と隣接する山間にある真室川町は、大部分が森林で占められ、古来から林業の町として栄えてきました。また、冬は降雪量が多いことでも知られ、清らかな川や尾根を連ねる山々など自然の豊かさに感銘さえ受ける山形県らしい地域です。そんな真室川町で室町時代から代々受け継がれる伝承野菜、じんヱ門もんいも。ホクホクと柔らかく、粘り気のあるなめらかな食感が特徴で、山形県を代表する郷土料理「芋煮」にも使われる里芋です。じんヱ門もんいもを中心に数々の伝承野菜を守り続ける農家「森の家」が主宰となり、その収穫時期に例年開催される収穫祭「芋祭2015」が先日、真室川町で開催。今年は、300近い人々が集まったことにより一層賑わいを見せていました。

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真室川は、東京駅から約4時間で到着する山形新幹線の終着駅「新庄」より、さらに車で40分ほどの場所。古民家が立ち並ぶ趣ある新庄の町を通りぬけ、のどかな田舎道を進んだ先に、出羽山地と奥羽山脈に囲まれた真室川の田園風景が広がります。この地域で受け継がれる伝承野菜、じんヱ門もんいもの収穫祭「芋祭」が行なわれる会場は、黄金色の稲穂に囲まれたコミュニティーセンター「まざれや」。

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当初「芋祭」は、伝承野菜のじんヱ門もんいもをより多くの人に伝えるためにその収穫時期に始めたイベント。年々参加者の数が増え、300近い人々が集まる近年、じんヱ門もんいもだけでなく、真室川町の魅力を多くの人に伝えるために「つる細工」のワークショップや真室川音頭の教室、ツアーなどの催しが企画された大きなイベントに発展しました。「地域のおじさん、おばさんたちがイベントに参加するみなさんをもてなす姿は、芋との結びつき以上に人々との交流が生まれていることを実感できる本当に嬉しい機会です」と、「芋祭」を主宰する農家「森の家」20代目の跡継ぎ・佐藤春樹さん。そんな「森の家」の畑に子どもからお年寄りまでさまざまな世代が集い、「芋祭」のメインイベント“甚五右ヱ門芋じんごえもんいも”の芋掘りがはじまります。

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▲ 一面にじんヱ門もんいもが植えられた「森の家」の畑。もともと20株ほどしかなかった小さな畑を春樹さんの代へと代替わりをすると同時に拡大しました。

春に種植えした里芋が酷暑厳しい山形の夏に負けじと育ち、ようやく背を伸ばしたみずみずしい葉。日頃から手塩にかけて農作物を育ててきた春樹さんは、その農法についてこだわりを教えてくれました。「芋自体にしっかり良い味が出せるよう農薬と化学肥料を散布せず、昔ながらの鶏糞やカキガラ石灰、堆肥を使って育てています。農薬を使っていないので小指ほどの虫は付きますが、生ものを発酵させた肥料でなく、JAS有機の肥料を使うようになってからは良い芋になりました」。

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芋掘りでは、参加者のみなさんに「森の家」のスタッフが里芋の掘り方を丁寧にレクチャー。慣れない農作業に奮闘しながら収穫した大中小の里芋を両手にみなさんのこぼれるような笑顔が印象的でした。山形県に残された伝承野菜の里芋は、じんヱ門もんいもを含めて全4品種。しかし、長い歳月を経て地域の食文化や気候風土とともに日本各地で育まれてきた伝承野菜は、今、消滅の危機に瀕しています。

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スーパーに出回る野菜とは異なり、不揃い、収量に欠けるなどさまざまな理由がありますが、最も大きな問題は、伝承野菜を栽培する農家の高齢化。日々土に触れ、農業に勤しんできた春樹さんは「伝承野菜が資料として歴史に残される日をただ待つのではなく、季節を迎えるたび食卓に並ぶような愛される野菜となって日々の暮らしに残していきたい」と、生産者を代表しこれからの農業について切なる願いを語ります。後編では、伝承野菜を使った郷土料理や真室川町の魅力をご紹介します。

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▲ 伝承野菜、じんヱ門もんいもを育てる農家「森の家」20代目の跡継ぎ、佐藤春樹さん。

※[後編]は、こちらから

PROFILE

森の家(もりのいえ)/山形県真室川町で伝承野菜を育てる農家。「森の家」の畑は、電線や下水などが一切通ってない、大谷地という名の広い農地にあります。農家民家では、真室川の地域に伝わる食と農の文化を伝えるとともに、地元住民と交流できるスペースを提供。2015年グッドデザイン賞を受賞しました。morinoie.com